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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-26

エピローグ・脱出、そして……
 《変後暦四二三年四月六日》


 「あれから三日も経ってたんだなぁ……」
予想通り地上へと繋がっていた通路で地上に出た(その後も道を阻む木の根っこ等、障害はあったが)エリックは、ペール?から降りてラジオを聴きながら呟いた。
「………場所はシイルから東に七キロ辺りの森よ。怪我もしてるからなるべく早く。」
 少し離れた倒木の上では、クリスが通信でシイル基地の者と(実は地上への出口も、落ちたのと同じ森の中にあった)連絡を取っている。彼女もミネルグから降りている。
その手足には、先程応急的に付けた添え木が添えられており、とても痛々しい。
なんと彼女は、頭を強打して出血していた他に、左腕と左足を骨折していたらしい。
それでよくあそこまで冷静な判断と行動ができたものだと、エリックは感嘆を禁じ得ない。
と、気付けばクリスが手招きしている。
思うように動けないクリスに、こちらまで来させる訳にも行かない。
エリックは小走りに駆け寄って、クリスの隣に座る。
「え〜と……」
 呼んでおいて、いきなり言葉に詰まるクリス。
「何だ?」
「ん〜と、地下から出る時に言おうとしてた事なんだけど……」
「あ、ああ……」
 やや身構えながら、エリックはクリスの次の言葉を待つ。
「……今回は、世話になったわね。…あんたがいなかったら、あたしは多分一生あそこから出られなかったと思う。……本当に、ありがとう。」
 言って、クリスは握手の手を差し出す。こうして改まって礼を言われると、照れる。
エリックはやや苦笑気味に、その手を握り返した。
「いや、こっちこそ、お前には世話になりっ放しだった。迷惑も沢山かけた。本当なら俺から礼を言う所だ。ありがとう。」
 暫くお互いの顔を見た二人は、やがて手を離して微笑む。
そこで、クリスが思い出したように口を開いた。
「おあいこだね…………あ、そうだ。救助も呼んだけど、あんたはどうする?帰る?それとも…あたしと一緒に来る?」
 その言葉に、エリックは動揺した。そんな選択肢があるとは、思って居なかったのだ。
「あたしは軍から、ある程度の権限が認められてる。あんたさえ良ければ……部下として、あたしの傍に置いて置けるわよ。」
 暫し、エリックは迷う。クリスの申し出は魅力的だ。恐らく待遇は悪くないだろう。そして何より、クリスと一緒に居られるのだ。
しかし……
「すまない……やめておく。」
 静かに、エリックは言う。それを聞いたクリスは、寂しげに笑った。
「そうだよね。やっぱり、敵同士だし……国は、友人達は、捨てられないよね。」
「ああ……それに、俺はお前に相応しい男になりたい。それには、お前の庇護を受けてちゃ駄目なんだ。今度会う時には、俺はお前を一生守れる位強くなる。」
「あはは、それってもしかしてプロポーズ?」
 冗談めかして言うクリスに、エリックが真っ赤になって固まる。
「……………マジ?」
 その様子にエリックの本気を悟り、今度はクリスが固まる。
「あたし達…敵同士なんだよ……?」
「言っただろう。ジュマリアでもナビアでも、お前はお前だ。」
 辛そうに目を逸らし、クリスは言う。
それでも、エリックはクリスの顔を挟んで彼に向け、続ける。
「…俺は本気だ。戦争が終わって、二人とも生きていたら…その時は…結婚しよう。」
 クリスの潤んだ瞳とエリックの真剣な眼差しがぶつかり合い、二人は暫し見詰め合う。
「本当に…本気なの?」
「ああ。本当に本気だ。」


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