『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-12
第六話・開錠
《変後暦四二三年四月?日》
ふと目を覚ましたエリックは、自分の胸で寝ていたクリスが居ない事に気付いた。
「クリス……?」
急いでコクピットの明かりをつけ、メインディスプレイを確認する。
ペール?に回頭させても、クリスの姿は映らない。
見れば、クリスの乗っていた白銀の機体も姿を消していた。
上から差し込む僅かな光以外は真っ暗な中で、エリックは一人きりだった。
「そうだ、通信機!」
エリックは思い出して、通信機を取り出す。
「あ、起きたの?おはよ。」
その時だった。コクピット内のスピーカーに、クリスの声が響いたのは。
エリックより先に目覚めて近くを探索してきたクリスが言うには、エリックがこの前見つけたロックされている扉の先が怪しいらしい。
というより、あたりは荒廃が進んでいてまともな材料は望み薄との事。
なのでワーカーを使って、上からその扉の先が続いている地面を掘ろうと思ったが、尋常じゃなく硬くてとてもではないが掘れなかった。
なので一旦戻ってきたらしい。
「ま、こんな所ね。とりあえずお腹空いたでしょ?はい、レーション(軍用携帯食料)余ってるから、食べて良いわよ。」
昨夜(?)の事には、クリスは触れなかった。
エリックも、そのつもりだった。
「ああ、すまんな……」
クリスから受け取ったレーションを齧りながら、エリックはクリスを見つめる。
「なによ?なんかついてる?」
「いや、なんかお前っていつも食事をレーションで済ませてそうだなって……」
本当はただ自然に視線が行ってしまっただけなのだが、照れ隠しにエリックは答えた。
「な、なによ失礼ね!これでもあたしだって料理くらい……」
「できるのか?」
「……女が家事をやるなんてもう古いのよ。」
言って、クリスはぷいとそっぽを向く。
「……誤魔化したな。」
不思議なものだと思った。
会って日も浅い……しかも本来なら敵同士の筈の二人がこうして喋り、まるで旧知の友であるかのように接しているのだ。
恐らく地下から脱出すれば、もう会う事も無くなってしまうのだろう。
「なぁ……」
そう思ったエリックは、思わず口を開いていた。
「なによ?」
先ほどのやりとりでへそを曲げたままのクリスが、ぶっきらぼうに問い返す。
「俺達って、脱出」
「できるわよ。あたしが付いてんだから安心しなさいよね?」
クリスはエリックの語尾に被せて、力強く断言する。
本当に言いたかった事はそうではないのだが、今更言い直すのは躊躇われた。
「だがどうやって?上からも駄目だし、ロックを解除するにももう此処の電力は活きてない。ワーカーの電力残量だってあと二日と保たないぞ。」
ふてくされたように言い募るエリックに、クリスは自身ありげに答える。
「ふふ、あたしに任せときなさい。」