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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-11

「…確かに、良く仕上がっている。この短時間に修理をこなすとは……」
 感嘆のため息をつきながら、エリックは言う。
立ち上がった後、ペール?を動かしてみていたのだ。
「ふふん、今までの非礼を詫びて、感謝して敬っても良いわよ。」
「それは無いな。」
 シートの横で悪戯っぽく笑うクリスに、しれっと答えるエリック。
気付けばいつの間にか、こんなやり取りも普通に出来るようになっていた。
不思議なものだと思いつつ、悪い気はしない
「何にやけてるのよ?」
知らぬ間に微笑を作っていた自分をクリスに指摘され、エリックは小さく苦笑する。
「いや、なんでもないさ……ただ、お前とも随分馴染んだな、と思ってな。」
 それを聞いて、クリスは一瞬不思議そうな表情をした後、くすっと笑う。
「そういえばそうね。あんた、少しエルに似てるからかも……」
 ふっと遠い目に悲しげな微笑をして、クリスはエリックを見る。
「エル?」
 初耳の名前に、エリックはつい訊ねてしまう。
「ん、そう。生まれた時から、何をするにも一緒だった幼馴染の一人。」
 生まれた時から一緒だったという話からして、絆の強さを伺わせる。
クリスは背を向けてモニターの方に向いてしまった為、その表情を伺う事は出来ない。
「で、俺はそのエルに似てるのか?」
「うん。お人好しそうな雰囲気とか……特に頼りなげな所なんかね。」
「頼りなげなとこって……」
 反論しようとしたエリックだが、悲しいかな、今の彼では反論の余地はなかったりする。
「それで、そのエルは今どうしてるんだ?」
 聞いてから、『しまった!』と思った。
先ほどからの様子で、その『エル』がどうなっているか推測して然るべきだったのだ。
「ん?乗ってたワーカーが、コクピットを破壊されちゃったんだって………」
 予想通りの答えに、エリックはなお更自分の発言を悔やむ。
「でもね、多分まだ生きてると思うの。機体もナビアに回収されちゃったし、この目で見た訳じゃないもの。」
 そこまで言って振り向いたクリスの頬には、涙が一筋流れていた。
「クリス………」
 呟いたエリックの言葉と様子に、クリスは自分が泣いている事に気付いたらしい。
「あれ?おかしいな……エルは死んでなくて、今でもあたしが助けに来るのをずっと待ってて……なのに…なんで…あ、あれ……」
 必死に笑顔を取り繕おうとするクリスの頬を、どんどん涙は濡らしてゆく。
クリスだって気付いているのだ。『エル』生存の可能性の低さに。
「違うの……悲しくなんて…だってエルはまだ生きて………」
 その先はただ、嗚咽となってクリスの喉から漏れるだけだった。
エリックはそんなクリスを見て居られなくなって、その肩を抱き寄せる。
「無理するなよ………」
子供のように泣きじゃくるクリスは、エリックの胸に顔を埋める。
「うっ……うぅ……エル…エル……もう一人は嫌だよ……寂しいよ………逢いたい…エルに逢いたいよぉ……うぅ…うわぁぁああぁぁん!!!」
「…………」
エリックは何も言わず、ただクリスに胸を貸して彼女の背中を優しく叩いていた。

 泣き疲れてエリックの胸で眠ってしまったクリスを抱きながらコクピットシートの背もたれに背を預け、エリックは何も映らないディスプレイを見ていた。
「エル……か…」
 見知らぬ『エル』がどのような人物だったのかぼんやり考えながら、彼は呟いた。
「…戦争……なんだよな……」
 この戦争に何の意味があるのか?
今まで深く考える事もしなかった。流れに身を任せていただけだった。
「俺は……どうすべきなんだろうな……」
 返ってくる事の無い問いを宙に投げかけ、夢想に耽る。
「とは云っても唯の一兵士に何が出来る……?…俺にも雷神のような力があれば……」
戦局を独りで変える力を持つという雷神。どんな事を思い、戦っていたのだろうか?
そんな事を考える内に、エリックの意識も睡魔に飲み込まれていった。


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