隣のオンナ-3
「―――んで、どうしたんだよ。その女」
「………いや……このままじゃヤバイと思って、俺がそこで弁当持って入ってたんで、そこまでっスけど……」
「………は?弁当?……なんだよお前、よくそのタイミングで入るな!?」
「……え?……そ……そうスか……?」
「そうだよっ!せっかくイイとこだったのになんで邪魔すんだよ全くよー」
「…………店長…………それ……誰目線で言ってんスか?」
「バーロー!日本中の成人男子代表目線に決まってんだろーが!……お前そこまで覗いてたくせに、なんで最後まで見てこねぇんだよ!」
店長という立場も忘れて、あからさまに残念そうな顔をする寺島。
「いや……んなコト言われても……」
「たった今まで出歯亀だったのに、急に一人だけ中途半端にカッコつけてよー。昔っから、『据え膳食わぬはなんたらかんたら』とか言うだろうがよー!」
「……いや……その例えは何か違うと思いますけど……」
「ふーん………なーんだよ。つまんねぇ話だな」
寺島は白けたように大袈裟に呆れて見せると、再び車のほうに向かって歩き出した。
中途半端……か……。
そうだな――――。
確かに馬鹿げてるかもしれない。
俺が女を助けるなんて。
誰よりも大切にしなければいけなかった女を、何年もさんざん苦しめて泣かしてきたくせに―――。
自嘲気味な笑いがこみあげたところで、寺島の携帯電話が鳴った。
「―――はいっ、弁当のテラシマ!―――はいっ。チキンカツ弁当と焼鳥弁当。毎度ありがとうございます!場所は?―――はぁはぁ、わっかりやしたぁ。すぐお持ちします!」
携帯電話を白衣のポケットに突っ込みながら、寺島が職人の顔に戻る。
「おっしゃ、木村ぁ!仕事だ仕事!」
「――ハイ」
注文が入って仕事を始める時の寺島はいつも本当に楽しそうで、俺は少しだけ羨ましくなる。
なんだかんだ言いながら、この人はオン・オフのメリハリの利いたいい店長なんだろうなと思う。
「あ、それから―――」
車のドアを開けながら寺島が振り返った。
「……ハイ?」
「今回の出前は―――俺が行く!」
仕事モードのまま大真面目にキメた顔に耐えきれず、俺は思いっきり吹き出してしまった。
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