加柄割人 VS 嫌いなアイツ-1
ボクの名前は加柄割人(カガラカツヒト)。わけあって不良です。でも小市民です。その理由は前回話したので今回は止めておきます。
好きな動物はボクを見下さない犬です。嫌いな動物は沢山いますが、特にこれから書く虫が嫌いです。
その虫との出会いは突然でした。ボクが保育園児だった時、砂場の真ん中にいたのです。
「お散歩してるのぉ?」
ボクは虫の前にしゃがみ込んで聞きました。
『休憩してるところだが、おまえは誰だ?』
と虫の声が頭の中で聞こえました(保育園児だったボクは親戚のお兄ちゃんをカメハ○波でやっつけていたし、仮面ラ○ダー**に変身できたぐらいなので、虫語なんてへのへの河童でした)。
「僕の名前はカガラカチュヒト3才です。虫君は何ていうお名前ですか?」
『俺か? ……名乗るほどのもんじゃねぇよ』
虫君はゆっくりボクに背を向けそのまま去っていこうとしました。後ろを向く姿は何処か哀愁があって、保育園児のボクでもカッコいいと思いました。
「こんな所にいたら小山くんに踏まれるよ」
虫君の足がピタリと止まりました。
『コヤマ? 誰だい、そいつは?』
と聞こえたので、
「小山くんはね……」
ボクは虫君に小山くんの事を教えてあげました。
小山くんと言う子は、ボクと同い年にして、虫いじめのプロフェッショナルでした。
たとえば、蜘蛛の糸をお尻から出して、棒に巻きつけて「わたがし…」と言ったり、団子虫を集めて「じいちゃんのマネ…」と言ってゲートボールをしてみたり、ミノムシの“蓑”をはぎ取って「カゼひくなよぉ〜♪」と言って“ババンババンバンバン…”と踊ってみたり……。小山くんこそ極ワルの名が相応しいとボクは思います。
ともあれ、小山くんに見つかったら、虫君がひどい目に遭わされると思ったので教えてあげました。
『だったらボウズ、俺を草むらまで連れてってくれないか?』
とボクには聞こえたので、ボクは草むらに連れていってあげようと思い、虫君を手に乗せました。
ついでだから初めて見る種類の虫を目の前に持ってきて、前から上から左右から観察しました。緑色をしていて太った葉っぱの切れ端みたいと思いました。
そうしていたら虫君が飛んだのでビックリです。でもボクの鼻先に止まっただけでした。
『俺は見られるのが嫌いでね。ここで落ち着かせてもらうよ』
と聞こえました。確かにそこはボクの目ではよく見えません。虫君は照れ屋でカッコいい日本男児みたいでした。
「うん。いいよ」
ボクは虫君を鼻に乗せたまま、保育園の敷地に少しだけ入っていた雑草に向かいました。
途中、恐れていた小山くんに見つかって、こっちに向かってきました。
「カッちゃ−ん。その鼻のバッタ貸せよぉ」
小山くんは虫君をいじめる気だとすぐに分かりました。そんな事許せるはずがありません。……その頃のボクは正義のヒーローでしたから。
「小山くん、また虫をいじめるんでしょう?」
「そうだよ」
と言ってボクの方に向かってきます。
「そんな事だめぇー!」
友達になった虫君を、心の底から救いたかったボクは懸命に叫びました。そしたら小山くんがボクの勢いに負けて?
「げっ! それいらない。カッちゃんくっさぁ」
と言って逃げていきました。よく分かりませんが、ボクは虫君を守る事ができました。小山くんより弱いボクが、ボクより弱い虫君を守ったのです。きっとその時のボクは虫君のように背中で男を語っていたと思います。まさに「おとこの中のおとこ」だったと思います。
「着いたよ虫君」
雑草の前に着いたので、ボクは虫君を離してあげなくてはなりません。
『おぅ、ありがとよボウズ。じゃあ葉っぱの上に置いてくれ』
とボクには聞こえたので鼻に止まった虫君を手で掴もうと思い、手を鼻の近くに持っていくと、
「くっしゃぁ−−−!」
手が臭かったんです。汚い話ですが手がウ○コだと思いました。……3歳のボクの発想は、『臭い=ウ○コ』でしたから、申し訳ありません。
とにかく手が臭くて何でだろうと思っていたら、
『アバヨ。間抜けな人間のこども……』
とボクに言って、虫君は飛んでいきました。休憩中なんてウソだったのです。……って、勝手にボクがそう思い込んでいただけですが、恩を仇で返された気がして堪りませんでした。
小山くんの言った「カッちゃんくっさぁ」とは、虫君が臭い虫だからだとボクは気付きました。
でもいまさら気付いても後の祭りです。