HOLIDAY U-3
「だから。おまえの話だろ?何言った?」
ああ、ものすごく馬鹿げてる。
美里さんから引きずり戻すために聞きたくもないことを聞いている。
「ほら、『ねえ、知ってる?』って雑学言うキャラクター、あるじゃん。あれの真似したの」
CMとかで出てくるキャラ。確かに涼ちゃんにかぶってる気がする。
可愛らしい、子供のような声で無邪気な感じなのだ。
涼ちゃんが真に無邪気かっていうと微妙だが。
でも、真似したからってそこまで怒るか?やっぱり深入りしたくない。
「あ、そう」
『ねえ、知ってる?グミって乳首と同じ硬さなんだよ。知ってた?』
「……」
ぱしん。
「いたっ!」
僕は反射的に聞きもしないのにあのキャラクターの声マネでしゃべり出した涼ちゃんの頭をはたいた。
「ゆ、悠ちゃん。お、お肉。お肉食べよう。ふーふーして」
美里さんが少し上擦りながら大きめの声を出した。
悠太の目の前で肉をちらつかせる。
「ふーふー」
悠太は息を吹きかけながら視線は肉に釘つけになっていた。
美里さん、ナイス。
「子供の前でする話か」
「わかんないって」
わかったら怖いわ。
「そしたら、こう、掴まれてねえ」
と、僕の顔面を力をぬいてわしづかみにした。
げ。アイアンクロー?
「ぐいぐい引っ張り上げられて『きもい!』って言われた」
「そりゃそうだろ」
「そんなに?ちょっとオチャラけただけなのに。美里ちゃん、圭ちゃんそういうの言わない?」
コイツはまた美里さんに振る。
「オマエじゃないから言わない!」
ばしっ!
僕は間髪入れずキッパリ言い切って、さっきより強めに涼ちゃんの頭を叩く。
「引く?」
顔をあげたかと思うと、またもや懲りずに美里さんに振る。
美里さんは赤い顔で俯いて、頭の上で手首を交差させてバッテンを作った。
「え?引かー、ない?」
「…無理。引く…」
ばしっ!
「だから、美里さんに振るなっつってんだろ」
「あ、そう…。だめなの…。だめなのか…。俺が悪いのか」
そりゃあオマエが悪いだろ。
ぶつぶつと言っていたと思ったら。
「……そのあと、圭ちゃん直伝の金的が入りそうになって、あぶなかったんだよね」
「僕は知らん。そもそも教えてない!」
僕は涼ちゃんを睨んだ。
確かに道場で空手を教えてはいるけど、姉貴には指導したことはない。
「圭ちゃん…。その顔かなり怖いよ?」
誰のせいだ?
「キンテキってなあに?」
「……」
……ソコ、引っかかりました?
美里さんにしてみれば、ようやく違う話題に入ったんだと思ったんだろうけどね。
空手の技の名前のつもりで。ある意味、技といえば技だけど。
「あ、それはね、むぐぅっ……」
僕は涼ちゃんの口を押さえ込み、床に転がした。
「…それ、知らなくていいスから」
僕は美里さんに向かってコクコクと頷いた。
美里さんも分からないなりになにか地雷を踏んだことに気づいたらしい。
同じように何回も頷いた。
「痛いよ、圭ちゃん」
押さえつけた手を外すと涼ちゃんがゆっくりと頭を掻きながら身体を起こした。
「オマエはちょっと赤裸々すぎる。どこでもそうなのか?」
「違うよ。圭ちゃん達だからだよ。もう婚約したんだしねー。ふふふ、美里ちゃんも縁は切れないよぉー」
僕の肩越しに手をひらひらとふる。
頭が痛い。
「オマエ、本当に落ち込んでるのか?」
「うん。美佳ちゃんいないとね。やっぱり、それはね堪えるわ」
にへ。と笑う。
確かにコイツにしてはパワー不足かもしれない。けど。
「ほら、そういう意味では縁は切れないから。俺と美佳ちゃんが同時に切る気にならない限りね」
お茶を飲みながら、ふふん、と笑った。ちょっと嘲笑ぎみなのかな。
「どうせなら、仲良しさんの方がいいにきまってるでしょ」
笑うけどやっぱり、おとなしい。気がする。
いつもよりは、だけど。
「むー。どーするかなー」
腕を組んで考え込んでいる。ように見える……。
「悠ちゃん、お父さん、いーこいーこしてあげて」
そう言って美里さんが悠太を立たせた。
悠太は言われるままに涼ちゃんに近づいた。
「いーこ、いーこ…」
涼ちゃんの頭をなでる。
涼ちゃんが笑う。
「そーか。悠太もいいこだよ。大好きだよ」
涼ちゃんがにっこりと微笑んで悠太を抱き締めて頭をなでた。
悠太が屈託なく笑う。
「大丈夫ですよ。本当に嫌になったんなら、大事な悠ちゃんを置いて行くなんてことないです」
「そだね。ありかと、美里ちゃん」