全一章-2
チアガールの自分を見せるのは好きではありませんでしたが、
体育系部活の選択で、仕方なくチアチームに入りました。
同性の女の子の足や、チラリとのぞく白いパンツを見るのは好きでした。
でも、なまじそのチームに入ったばかりに、
いきなり野球部の顧問、鬼塚の鶴の一声でチアリーダーにされてしまいました。
「笹原は背も高いし、足が綺麗だからお前がやれ」
ところが2、3日もすると、その鬼塚が言ったのです。
「お前はダメだ。色が白すぎて目立っていけねえ」ですって。
だからイヤだと言ったのに。
鶴の一声が、その頭のままにツルッと滑ったのです。
ホッとしました。
チアガールの足を見ているのが楽しいなあ、と思って入った動機が不純でした。
それでチアチームを止め、
ついでに体育係の部活から一切縁を切りました。
ある時、その鬼塚に喚ばれて、校長室に連れて行かれました。
「オマエ!・・・あ、校長、すみません。笹原! ウチのWを誘惑したんだってな!」
「は? 何のことでしょうか?」
「お前のせいで、Wは全然打てなくなるし、コントロールはズタボロになったんだぞ」
「ズタボロって何ですか? 立たなくなった・・・いえ、バッターボックスに立てなくなったんですか?」
「分かってるんじゃねえか。Wがな、お前に股間を蹴られてタマチンが・・・あ、校長、すみません。ナニがナニしたっていうじゃないか」
「なんで誘惑したっていう私の方がそんなことするんですか?」
「口説いてるのに振られたから腹が立ったんだろ?」
「変ですわ。矛盾してます。私みたいなカヨワイ乙女なら、振られたら泣きますわ。そうお思いになりません? 校長先生」
「そうですなあ、そうでしょうなあ」
「お前がそんなタマか? あ、校長、すみません。笹原ッ! 自分が綺麗だと思っていい気になるなよ」
「私、自分を綺麗だなんて思ってません! 上品でしとやかですけど」
「野球部の連中が、お前をおとすの賭けてたって言うじゃないか。それぐらいモテテるって自惚れてたんだろ? それで、一番カッコイイWを誘惑してやろうとしたんだろ?」
「Wって、あれでカッコイイですか?」
「鬼塚先生、ちょっと無理がありませんかな、その話」
「そうですか?」
「W君が笹原さんにチョッカイを出したんなら、タマチン・・失礼、ナニの話は分かりますがねえ。それってW君からの訴えですか?」
「そうなんです。笹原のヤツをとっちめて欲しいと。誘惑されて捨てられて、野球にも勉強にも身が入らなくなったって言いましてね」
「昔の映画のタイトルにそんなのがありましたな。あなたも古いですなあ」
「ウチのエースがこれでは、甲子園がますます遠のきますんで」
「甲子園ですか・・・もともと遥か彼方でしょうに。鬼塚先生」
「そんなことはありません。Wが頑張れば今年こそ大丈夫だったんです」
「W君一人ですか?」
「そんなことはありません。マネージャーがモシドラを熱心に読んでますし」
「鬼塚先生、もう一度詳しく調べ直してみませんか? どうも、あなたを始め野球部はその、何て言うか、頭がかるい・・・いや・・・薄い。あ、失礼」
「笹原、笑うな!」
「笹原さん、何か言うことは?」
「話があべこべなんです。襲われそうになったのは私ですのよ」
「でしょうな。どうも、私にもW君の逆ギレのような気がしますがな」
「私もそう思えてきましたが、この笹原にも罪がありますな。こいつをチアリーダーにしたときは、私もクラッときましたからな」
「鬼塚先生!」
「私、だから男の人嫌いなんです。そんな私が男性を誘惑するなんてあり得ません!」
「私も男ですが」
「校長先生は、男とは・・・」
「寂しいですなあ、年を取るってことは」
その校長だって、私の足を見ながらニヤニヤするんです。
Wのあんな棒きれ、折れれば良かったのに、と思いました。
棒きれって折れるんでしょうか?