演劇部バレンタイン公演-9
「ハイ!休憩時間はお終いよ!」
中田先生が手を叩きながら言った。
「みんなポジションについて!始めるよ!」
その声を聞いて美咲は立ち上がった。美咲の顔からは強い意志が感じられた。美咲は完璧に仕上げてくる....私はそう確信した....
「やれば出来るんじゃないの!」
中田先生は嬉しそうに言った。そう美咲は、私が確信した通り完璧に仕上げてきた。
それからの美咲はあの時と同じように、成長のスピードを増していった。
そんな美咲の姿を見ているうちに自信を失う者が出てきた....私だってそう思う事もある....しかし....私達の一人でも自信のないパフォーマンスをすれば公演は成功しない....それもまた事実である....私はレッスン終了後メンバーを集めた。
「みんなに聞いてもらいたい事があるの....」
みんな私に注目した。
「ステージに立ったら観客全てが自分を見ていると思って!!ステージの上では役の大小・ポジションは関係ない!自分が主役だと思って!!そう思えば手を抜けなくなる!自分の100%の演技をすれば例えそれが道端の石ころであってもあなた達を輝かせてくれる!その事を忘れないで!!」
それは中学の文化祭の時に先生がかけてくれた言葉だった。
「麻里!いい事言うじゃないの!」
美咲が含みのある笑顔で言った。
「さすが私達のキャプテンだね!!」
美結もそう言ってくれた。
それからメンバーのレッスンの時の姿勢が変わっていった....
そして....2月14日....公演当日をむかえた。
とうとうこの日をむかえた....みんな緊張しているのがわかる....あの麻里でさえも緊張しているのがわかる....今日の公演はいつもと違う....ステージの上で行われるのはいつもの演劇ではないのだから....みんな無口になっていた....
「俺達先に客席でスタンバッてます」
そう言って私達に声援を送ってくれる役の男の子達は控え室を出ていった。
「私達もそろそろ行こうか?」
麻里の一言でみんな立ち上がった。
「待って!みんな!ちょっとこっちに集まってくれる?」
私は控え室を出て行こうとするみんなを呼びとめた。
「美咲?どうしたの?」
私を中心に円を描いたようにみんなが集まった。
「左手で隣の人の肩を抱いて、右手を中にだして!」
私はその円の中に加わって
「みんな右手が重なるようにもっと近づいて!」
メンバーみんなの右手が重なると
「麻里!この前みんなを集めて言った事もう一度言ってくれる?」
「えっ?...美咲が言ってよ!ここまで私達を引っ張って来たのは美咲なんだから!」
「何言っているの?私はただ自分勝手に走ってきただけ!メンバーみんなをまとめてここまで導いてくれたのは麻里なんだよ!私に出来るのはこうして円陣を組むように呼びかける事まで!後は麻里の仕事だよ!そうだよねみんな!」
みんなが頷いた。
「本当はこんなの私のガラじゃないんだけどね!!」
麻里は照れながら言った。
「何言ってるの!麻里は私達の頼りになるキャプテンだよ!」
私の言葉にみんなが頷いた。麻里は深呼吸して
「いいわね!ステージに上がったら観客全てが自分を見ていると思いなさい!」
「ハイ!」
私達は麻里の言葉に打ち合わせもしていないのに返事をした。