演劇部バレンタイン公演-4
「その厳しい要求についていってる美咲も凄いけどね!」
「そんな事ないよ麻里!中田先生が私に厳しいのは、私が下手だからだよ!!」
「何言ってるんですか!美咲先輩が下手だったら僕達はどうなるんですか!ねぇ織田さん!」
「そうよ!葵君の言う通り!美咲は凄く上手だよ!!」
「ありがとう!もしそれが本当だとしても....中田先生から見たら、センターとしての私はまだまだなんだろうな.....」
「僕...美咲先輩の事..尊敬します!あんなに厳しいレッスンについていってるだけでも凄いのに....まだまだって....僕には絶対ムリですよ!!」
「私も!!」
「ちょっと二人しておだてないでよね!」
私は恥ずかしくて真っ赤になっていた....
「それでは....お疲れ様でした!」
「お疲れ様!また明日!」
暫く歩いた後、葵君と別れた。
「ねぇ麻里...麻里は誰かにチョコ渡すの?」
「えっ?」
「麻里は...好きな人いるの?」
「う..うん....」
麻里が恥ずかしそうに頷いた。
「誰?教えてよ!!」
「そんなの言えるわけないでしょう!」
「じゃぁ.....その人に告らないの?」
「あのね.....実は...願掛けしてるんだ....」
「えっ...何?」
「もし...今度の公演が成功したら....告ろうかなって....」
「本当?」
麻里は黙って頷いた。
「公演を失敗出来ない理由がまたひとつ増えちゃったな!」
私は麻里に笑いかけた。
「麻里!ちゃんと言っといてよね!」
2月に入ってすぐに同級生の部員三人に言われた。
「美咲がセンターにいる事に文句があるわけじゃないの!美咲の実力も認めるけど....一人だけ前に進んでいかれても....困るのよね!」
「チームワークを乱さないように言ってね!」
多分....彼女達も本気でそう思っているんじゃないだろう....想い通りに上達しないイライラがそう言わせたのだろう....彼女達の気持ちがわかるだけに気が重かった....
玄関に行くと、下足箱の前で美咲がしゃがみこんでいた....美咲のところに近づいて行って
「どうしたの?」
そう声をかけようとした時
「ねぇ!聞いた?北原の奴フラれてたみたいよ!」
「聞いた!聞いた!思った通りよね!」
「そうそう!」
そんな会話が聞こえてきた....
「演劇部の部員も大変よね!北原の我が儘に振り回されて!」
「そうよね!あいつのカラオケを聞かされるこっちの身になってくれよね!」
「どうせ...得意げな顔で歌ってるんだろ!想像するだけで虫唾が走るよ!!」
そんな会話を聞いているとだんだん腹がたってきた!美咲がどれだけ努力しているのか知らないで好き勝手な事言わないで!って私は思わず文句を言いそうになった....美咲は私の右手を掴んで、首を横に振った....
「美咲?」
美咲は私を見つめながら
「いいの.....なれているから.....」
淋しそうに笑った。
「美咲.....」
私はたまらなくなって美咲を抱きしめた....なれているなんてウソに決まっている....私なんか自分の悪口をたった一人にでも言われただけで傷つくのに....それなのに美咲は....しかも私達演劇部への誹謗中傷も一身に受けている....美咲は先頭に立って、私達の批判の矢面に立っていてくれていたんだ....今初めて気づいた....