追憶の日記から-15
私が、初めて出会った頃のお姉ちゃんの年齢になってみると、なんて下級生の幼く見えることでしょう。それを振り返るとき、お姉ちゃんの愛の迷いが良く分かるのです。ただ喜びに酔い痴れるだけではなく、お姉ちゃんの私を見るときの涙は、ひょっとしたら、未だに私を自分の欲望のために同性愛に巻き込んでしまったという後ろめたさを感じているのではないだろうか。でも、それは同時に、憐れみを含んだ本物の愛情そのものでもあるのだと信じられました。
お姉ちゃんが教えてくれた官能の喜びにもかかわらず、今は立場が逆転してしまったように、私は、お姉ちゃんの髪の毛から足の指先まで、食べられるものなら全てを食べ尽くしてしまうほどの激しさに変わっていました。それは愛欲の名にふさわしい激しさと言っても良いくらいです。
<もう後悔しないで>
<彩乃はお姉ちゃんを愛することに何の不安も感じてはいないのよ>
<同性愛だって男女の愛だって、愛することに変わりはないのよ>
<私にはお姉ちゃんが全てなのよ>
お姉ちゃんの身体の隅々にまで焼き付けてしまいたい気持ちが、より一層の深さを増して積極的な行為になっていったのです。
官能の深さは愛の深さなのだと思います。
長野に帰る日を一日延ばしにして、何日も何日も、私は、自分が満足するよりも、お姉ちゃんの身体の全てが欲しくて、失神していく美しい顔を見たくて、そして、私の歓喜の声も聞いてもらいたくて、二人だけの時間を大切に過ごしました。
お姉ちゃん対する私の愛には一点の曇りもないのだ、という想いは伝わったのだと思いました。ある日ベッドの中でこんなことを言い出したのです。
「奈津子ね、いま経済や家政学を勉強しているのよ。彩乃が音大へ行って、将来ピアニストになったら、奈津子は彩乃のマネージャーになって支えるからね」
「なれるかなあ・・・ピアニスト・・・」
「なれるよ。彩乃は才能があるんだから、きっとなれるよ。楽しみだなあ。彩乃が学校を卒業したら、法律的に結婚はできないけど、おばあちゃんになるまでずっと一緒に暮らそうね」
「離れるもんですか。お姉ちゃんがイヤだっていっても・・・」
「奈津子がおばあちゃんになっても、愛してくれる?」
「そんな当たり前のこと言わないでよ。お姉ちゃんは、あたしが愛するたった一人の人なんだから」
お姉ちゃんと私は、もう幸せの反動を怖れることもなく愛し合いました。