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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-14

3、同じ心

 十年(ととせ)経ぬ 同じ心に 君泣くや 母となりても

          *  *  *

 春が巡って来ました。
 お姉ちゃんが目覚めさせてくれた同性愛の甘美さは、風の匂いさえも素肌を撫でるような優しさに変えてくれました。
 愛する人の住む長野の温もりはお姉ちゃんそのものなのです。
「いつでも逢えるからね。お休みもあるし、彩乃もすぐ奈津子の後を追いかけてくるのね。遠距離恋愛をいいものにしましょうね」
 そう言い残して、お姉ちゃんは東京の大学へ進学しました。

 お姉ちゃんが横にいない寂しさはありましたが、耐えられなくはありませんでした。心身共に愛されているという確かな証しを知っている私の身体は、電話の声だけでも満たされていくのです。
 時折新田家のお風呂に入りにいくと、ご両親はもう一人の娘が残っているように言ってくれます。夕食を一緒にしたり、お姉ちゃんのベッドで眠ったりと、変わらない生活パターンで過ごせました。そして夏休みが来ると、お姉ちゃんの帰りを待ちきれなくなった私は、東京まで迎えに行きました。

 たった数ヶ月なのに、一年も逢えなかったほどに思えたお姉ちゃんは、美しさそのものが匂っているような女性に変身していました。その美しさは、誰かにこの人を取られてしまうのではないか、なんて不安を感じさせるくらいでした。私は、数ヶ月の寂しさをぶつけるように、お姉ちゃんの全てを吸い尽くすほどの激しさでお姉ちゃんの愛に応えました。まるで自分の成長を見せつけるかのように・・・。
 でも、喜びの後や朝方、お姉ちゃんの胸の中で目を覚ますと、私の鼻や唇を指でなぞりながら涙を浮かべているお姉ちゃんを見ることがあるのです。その涙は、深く愛されている喜びを感じさせてくれる涙でしたが、「彩乃に嫌われたら、多分死んじゃったかも」と言って、弱々しい泣き顔を見せたお姉ちゃんと少しも変わってはいないことを気付かせてくれる涙でもあったのです。

 いつの頃だったか父が言ったことがあります。
「子供が可愛いくてしょうがないと言う人がいるが、私は、お前たちを可愛いと思う前に、お前たちの寝顔を見ていると惻隠の気持ちの方が先に来る」と。
 愛するということは、愛する人の喜びも哀しみも受け入れることですもの。だとすると、はっきり意識しないまでも、愛する人の将来にまで責任を感じてしまうほどの重さも同時に味わうのではないかと思うのです。


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