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忘れ得ぬ人(改稿)
【同性愛♀ 官能小説】

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追憶の日記から-16

 私が音大へ入ると、お姉ちゃんの使っていたワンルームマンションに私が入り、入れ違いにお姉ちゃんは長野に帰ることになりました。
 久しぶりの東京生活で、かつての級友たちとのお付き合いも復活し、親戚巡りをしているだけでも結構忙しく、やがてくるお姉ちゃんとの満ち足りた新婚生活を想像しながら楽しい学校生活を過ごしました。
 そんな中で、休みに入る。長野に帰る。急にお姉ちゃんが上京してくる。二人で旅をする・・・逢えない日々は長く感じられ、私の目は、私の指は、私の舌は、お姉ちゃんの身体を求めて疼きました。逢っている時間は短く、逢えなかった時間の分まで激しく求め合いました。お姉ちゃんはいつも新鮮で、いつも魅力的でした。多分お姉ちゃんだって、私のことをそう思っていたに違いありません。それは、私を愛する行為の激しさに表れておりました。
 そうしたお姉ちゃんとの濃密な愛に満たされて、3年が過ぎていきました。

 長野の母から、お姉ちゃんが結婚するという驚天動地の電話があったのは、暫くお姉ちゃんに連絡もできず、アンサンブルや伴奏など、他の人たちとの関わりが多くなったピアノの練習に勤しんでいたある日でした。
 お姉ちゃんとの愛には針の点ほどの不安もなく、安心しきっていたのに。

 張り裂けそうな胸に怒りを抱えたまま、自分の目で確かめたくて新田家での結婚式に帰りました。
 賑やかな親類縁者の喧噪の部屋から離れ、おばさまに「奈津子の花嫁姿、見てやっておくれ」と指さされた別室に入ると、花嫁衣装の着付けを終わったお姉ちゃんが一人ぽつんと椅子に掛けていました。そのあまりにも美しい花嫁姿に、私は一瞬立ちつくし、声を上げて泣いてしまいました。
<私に黙って、一体どんな理由があって結婚なんてできるの!?>
 私はお姉ちゃんの側へ走り寄って「お姉ちゃんのバカッ!!」と、小さいけれど、ありったけの恨みを込めた声で言ってしまったのです。
 お姉ちゃんは、白く塗られた手で私の手を求め、振りほどこうとする手を掴むと痛いほど握りしめながら、何も言わず私の目だけを見つめていました。
 お仏壇の前で新郎と並んで座っているお姉ちゃんは、披露宴の間、ずっと私だけを沈鬱な表情で見つめていました。私の涙の裏に、得体の知れない不安が襲ってきました。

 自宅に帰って着替えていた兄が、深々と溜め息をつきながらポツンと言いました。
「奈津子ちゃん・・・悲しそうだったね」
 母までが涙を浮かべていました。父もまた、嘆息混じりに兄に言ったのです。結婚式の後に交わすような会話ではありませんでした。
「おまえがぐずぐずしているのが悪い。だから、あんなお粗末な奴に奪われてしまうんだよ」


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