Valentine Day –side:lee--1
とある晩――
夕飯の後、セシルさんに頼んでキッチンを貸して貰った。
そこで作業を始めると、フラッと現れたのがリアナ。仕事帰りなんだろうな、少し疲れた顔をしてる。そんなリアナにお茶をいれて、再び作業を始めると興味を持ったらしく、キッチンを覗き込んできた。
「リーちゃん」
「ん?」
「何やってるの?」
「チョコ、溶かしてるの」
刻んだチョコを湯煎で溶かしてるとリアナが不思議そうに訊ねてくる。
「ふ〜ん、何で?」
『チョコ』と聞いて、しっくりきてないらしいリアナは真面目に聞いてくる。まさかとは思うけど、忘れてる?
「だって、明日2月14日はバレンタインデーだよ?」
街の至るお店でチョコが山の様に売られてるの見てないのかな?
それに結構教会の人たちも話とかしてたんだけど。
「バレンタイン? あー、女の子が男の子にチョコあげるって言うお祭りゴトのこと?」
「うん」
『お祭りゴト』……興味無さそうな表現だね。
でも、顔は何故かニヤニヤしてる。
「リーちゃん、アークさんにあげるんだ」
「うっ」
改めて指摘されると恥ずかしい。否定はしないけどさ。
「リーちゃんも女の子だねー。…………でも、私はあげたコトないなぁ」
なんでか嬉しそうに頭を撫で撫でされた。だけど、最後の言葉は聞き逃せない。
「え゛っ?」
「だって、付き合ってないもん。直ぐ結婚しちゃったし」
「結婚してから今まで一度もあげたコトないのっ?」
まさか、ホントに?
まさか、恋人『限定』のイベントだと思ってるんじゃ……?
「うん。だって、バレンタインって恋人のイベントでしょ?」
ケラケラ笑ってそれを認めたリアナは固まるわたしを見て首を傾げた。
「…………『限定』じゃないと思うよ? 学校の友達はお母さんが毎年お父さんにあげてるって言ってたよ」
「…………」
あ、珍しく驚いた顔してる。それに嘘は吐いてないよ。
「リアナもヒューイにあげたら?」
そう言ってみると、リアナは少しだけ悩んだ後に首を横に振った。
「や、……今までしてないし、そう言うの作れないし、やめとく」
料理が出来ないのは知ってるけど、そこはあんまり気にしなくて良いんじゃないのかな?
「…………ヒューイってそう言うの貰ったら喜びそうだよ? 『気持ち』を大事にしてる人だから」
「う゛」
答えに詰まってる。
よし。あと一押しだ。
「材料ならあるよ。一緒に作ろう。きっと喜んでくれるよ!」
「う、……うん」
かくて、バレンタイン前日にチョコ作りを始めてみたけど、仕上がったのは次の日の朝陽が昇ったころ。
いや、ホントにリアナって料理ダメなんだ……うん、ヒューイが自分から料理する気持ちが解った気がする。センス云々じゃないよ、あれは料理しちゃいけない人だ。