異界幻想ゼヴ・クルルファータ-7
「ちゃんと吹けたな」
頬にキスすると、もう一度そこを擦り上げる。
「あぐっ……!」
残滓を吹き上げ、シーツを汚してしまう。
「な……何よ今の……」
しばらくジュリアスにしがみつき、呼吸が落ち着いてきてから深花は尋ねた。
「潮吹き。できそうだとは思ってたけど、本当にできたな」
自分では分からない体の素質を見抜かれていた事に、深花は唇を尖らせた。
この男、本当に女慣れしていると思う。
「……あ。手、汚れて……」
体から吹き出した水状のものを受け止めたのだから、手の平は当然それにまみれている。
「気にすんな」
ずるりと指を引き抜けば、淫水でぬらぬらと光る手の平が現れた。
「やっ……!」
視界の端にその手が映り、深花は慌てて視線を逸らす。
恥ずかしくて耐えられず、ジュリアスの胸板に顔を伏せる。
片手で背中を叩いてあやしながら、ジュリアスは潮を手の平から舐め取る。
無味無臭だが、無性にいやらしく感じられて復活していた肉棒がより硬度を増した。
「……何してるのよーっ!?」
頭上で聞こえるぺちゃぺちゃという湿った音の正体に気づいた深花は、叫んで顔を上げた。
「何って……何をいまさら」
潮をあらかた舐め終わった頃にいきなり叫ばれ、ジュリアスは面食らう。
「あ、あ……」
ちゅるん、と赤い舌が最後の雫を舐め取る所を目撃してしまう。
流血するほど噛み付かれたり潮を吹いたりと初めて尽くしで摩耗した神経に、それは刺激が強すぎた。
視界が、ブラックアウトする。
深花はそのまま、意識を手放した。
目覚めたフラウは、落ち着いて周囲を見回した。
自分の正面には、唯一の出入口。
全面石造りの地下室らしい部屋で、換気孔とおぼしき天井の一画からは強い雨音が降ってくる。
拘束具は、手首足首のみ。
用途不明の首輪も着けられているが、装着感が妙に重い。
部屋の隅には様々な拷問具が山積しているから、これから自分の身に降り懸かるであろう出来事は容易に想像する事ができた。
「……」
生身での転移に耐え切れず、気を失った所まではぼんやりと覚えている。
こうして意識を取り戻せば、脳裏に浮かぶのは三人の姿だ。
たぶん今頃はザッフェレル辺りに自分を救出するよう詰め寄っているだろうが、それが実現する可能性は低いとフラウは踏んでいる。
何故ならば、デメリットが多すぎるのだ。
自分一人を救出するための手間を考えれば、自分が死ぬかパイロット返上による水神殿へのペンダント返還を待った方が遥かにたやすい。
その事で絶望を味わうには、彼女は感情に乏しすぎた。
冷静なティトーの、皮肉めいた笑顔。
すぐに沸騰するジュリアスの、怒り顔。
自分を見上げる深花の、憧れと尊敬に満ちた顔。
もう二度と会えないであろう仲間の顔を、次々と思い出す。
ぱた、と泪が滴った。
感情が乏しいだけで、感情がないのではないのだ。
「う……」
死にたくない。
またみんなに会いたい。
けれどどうやってここから逃げ出し、リオ・ゼネルヴァまで戻るというのだ。
一縷の希望など、どこにも見出だせない。
それでも、『死』を選べない。
生きていたい。