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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-8

「……!」
 正面の出入口が軋み、ゆっくりと開いた。
 隙間から、男が身を滑り込ませてきた。
 一挙手一投足に、音を伴わない。
 雨音がうるさいばかりで、近づいてくる男が身動きする度に発しているはずの布擦れの音すら聞こえない。
「直接顔を合わせるのは、初めてだな」
 屈み込んで視線の高さをフラウに合わせた男は、唇を笑みの形に吊り上げてみせた。
 レセプションの夜に見た時と、全く同じ顔だ。
 胸の上辺りまで伸びた、水色の髪。
 細い目は異常な情熱で爛々と輝き、偏執狂的な表情が顔を歪めている。
「魔具もうまく起動している。我らの地ダェル・ナタルにおいてお前が消耗せずにあり続けられるのは、この首輪のおかげだよ」
 男は首輪に指をかけ、強く引っ張った。
 一瞬だが気道が塞がれ、フラウは咳込む。
「……お前は本当に麗しいな」
 顎に手をかけて上を向かせると、男はフラウの顔を覗き込んだ。
「あの時から、もう数ヶ月……リオ・ゼネルヴァの人間を健常なままでダェル・ナタルへ連れ込むための準備で、ここまでかかった」
 男は、嬉しそうに笑った。
「この家も魔具も、全てお前のために作らせた。ゆっくりと、楽しみたいからな」
 この男は常軌を逸している、とフラウは判断した。
 深花の悲鳴に対する反応が遅れ、そんな生き物に捕らえられてしまった事が途方もなく悔しい。
「……これか」
 男は、フラウの首元で揺れる深い蒼の宝石に触れた。
「少し借りるぞ」
 首元にある同じ色の宝石を、男は掴み出す。
 かちりと軽い音を立て、二つは触れ合った。
「ーーーーーっっ!!?」
 沈黙を貫いていたフラウが、初めて声を漏らした。
 それを例えるのなら、精神の汚染・凌辱。
 乱暴に、荒々しく、男はフラウの脳内を犯していく。
 ティトーとジュリアス、二人に晒した後は忘却の彼方に追いやっていた生まれたばかりの時の事。
 産婆から自分には二つの性がついている事を知らされた母親の、気が触れたような叫び声。
 どこからかやって来た怪しい男へ、途方もない礼金と引き換えに自分を売り渡す両親の歪んだ顔。
 後でティトーが調査した結果、両親だった人間はもらった礼金を周囲にばらまいてフラウの存在を抹消し、フラウロの村で何食わぬ顔で農夫として生活していた。
 そこでユートバルトをそそのかし、両親だった人間とその関係者など礼金を授受した人間にはちゃんと理由を説明した上で、通常の三倍の年貢を課したとティトーは笑っていた。
 役人達はそんな重いペナルティが課せられた理由を知らないが、遥か上にある立場の人間から直々に彼らを名指しされたため、今も粛々と年貢の取り立てを行っている。
 質が悪いのはここからで、この事は周辺地域に徹底して通知されているのだ。
 たとえ彼らがサリュイ県を捨てて夜逃げを試みようと、宿を求めたり食料を買い足そうと人里に寄れば即座に身元が割れる。
 彼らには報奨金も懸けられているので、捕まえて役所に突き出せばいい小遣い稼ぎになる。
 実際重税が課せられた最初の頃は何度も逃亡を企てていたが、その度に村へ連れ戻されていた。
 近年は生きながら死人のような様相を呈している彼らを許すのはフラウの一言だと、ティトーは言っている。
 しかし、フラウにとって彼らはもはやどうでもいい存在だ。
 彼らに対しては憐憫も忿懣もない。
 興味が湧かない。
 だからティトーにそろそろ彼らを許してやって欲しいと願い出る気はないし、生きるも死ぬも彼らの勝手としか思わない。
「……ほう。女の体に男の性とは実に興味深い」
 男は、次の記憶を探る。
 フラウを買い取った怪しい男は、意外かも知れないがフラウを真っ当に育てた。
 初めて客をとったのは、フラウに初潮がきた頃。
 その客は体を撫で回すだけで満足し、法外な対価を喜んで支払った。
 次の客で、処女を散らされた。


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