異界幻想ゼヴ・クルルファータ-28
農村からしばらく歩いた場所で、デュガリアは自分の神機を呼び出した。
機体の色は空色がベースだが首から腰にかけて焦げ茶色に変色しており、腕には和服の袂のような袖がついている。
「まずは何からお手伝いしましょうか?」
やや不安の見える表情で愛機の様子を窺いながら、デュガリアは尋ねた。
「あたしの探査の有効範囲には限りがあり、カイタティルマートは所有者によって入念に隠蔽されている可能性が大。ならばそっちの匂いをつけて、迷子のガキが分かりやすいようにしてあげんのよ」
そう言うとウィンダリュードは、昨日と同じ手順を踏んだ。
ただし地面ではなく、デュガリアの機体に手をつく。
一声吠えると、デュガリア機に変化が起きた。
機体から地面へ、衝撃波が走る。
「わっぷ」
あおりを食らってよろめいた深花を抱き留めながら、ジュリアスは経過に目を凝らす。
「……、探査開始」
風圧に散らされて神機の名前は聞こえなかったが、デュガリアが指令を下す部分は聞こえた。
指令を受けた神機は両腕を広げ、注ぎ込まれた探査波を周囲に拡散する。
「さて……」
デュガリアは、こきりと首を鳴らした。
「昨夜教えていただいた方法、ご教授願いましょうか」
ヴェルヒドとウィンダリュードは、顔を見合わせる。
「……まあ、お前のドジの後始末はしないとな」
あきらめた風に、ヴェルヒドは呟いた。
「分かったわよぅ……」
唇を尖らせ、ウィンダリュードは唸る。
「バランフォルシュを呼び出して。そいつの神機に、エネルギーを補給するから」
「……へ?」
呆気にとられる深花を見て、ウィンダリュードは歯を剥き出した。
「あたしがドジって、そいつにその方法を知られちゃってね。今からそれを教えるから、黙って指示に従ってちょうだい」
不本意を示すようにつんけんした口調で言うと、ウィンダリュードは顎をしゃくった。
搭乗が必要ではなさそうだし、深花に異存はない。
「バランフォルシュ」
深花は、機体を呼び出した。
「……ちょっと違うのね」
畏敬の混じった声で、ウィンダリュードが呟く。
「まあいいわ。装甲をパージして、神経糸をあいつに接続。エネルギーの変換供給を指示するの」
ごく、と深花は唾を飲み込む。
「バランフォルシュ、装甲を解除。神経糸を接続してエネルギーの変換供給を開始」
他の三人のように、バランフォルシュへ指示を飛ばす。
重い音を立てて、鎧状の装甲が地面へ落ちた。
内部と違い、表面の筋肉は桃色だ。
あまりにも生々しい視覚に、深花は目を背ける。
バランフォルシュは探査を続けているデュガリア機に向かって、神経糸を繰り出した。
装甲の隙間から、伸びた神経糸がデュガリア機へ潜り込んでいく。
ぴく、とデュガリアが震えた。
「これはまた、何と言うか……」
呟くデュガリアのこめかみから顎へと、汗が一筋こぼれ落ちる。
「ま、あたしゃ楽な作業だとは一言も言ってないわよ」
ふん、とウィンダリュードが鼻を鳴らした。
「……そんなに苦しいんですか?」
心配そうに眉間へ皺を寄せる深花を見て、デュガリアは笑ってみせる。
「耐えられないほどではありません。大丈夫ですよ」
ぴくりと、肩が引き攣った。
まるで自分の機体が、バランフォルシュに犯されているようだ。
彼自身は女性が好みだが、例えるなら男に尻穴でも捧げて乱暴に扱われるとこんな感じなのかと思う。
機体が神経糸に侵食されるような、非常に不快な感覚が全身を貫くのだ。
その一方で、機体の中にエネルギーが満ちていく確かな手応えも感じる。
快感と不快感。
異なる感覚が同時に体を貫くのは、何度もしたい体験ではなかった。
「……あ」
広範囲に飛ばした探査波に僅かな引っ掛かりが感じられ、デュガリアは声を上げた。