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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-27

 翌朝。
 焼きたてのパンに作り立てのバターと秘蔵のジャム、ソテーした鳥肉にたっぷりのサラダとスープという非常に旨い朝食を提供してくれた農夫の子供達が、干し草小屋に姿を現した。
 出入り口からおずおずとこちらを覗き見ているのに、毛布にくっついた藁を取り払っていたジュリアスが気づく。
 夫婦とそっくりな兄妹は、ジュリアスと視線が合うと素早く体を引っ込める。
 しかしすぐに顔を出し、じっと五人に視線を注いだ。
「……何だお前達」
 腰を下ろして目線の高さを合わせつつ、ジュリアスは尋ねた。
「お……お兄さん達さ」
 好奇心が抑えられないといった様子で、少年は尋ねた。
「何者なの?偉い人なんでしょ?」
 答に困る質問を投げ付けられ、ジュリアスは声を詰まらせる。
「お父さんがさ、『ウェルディシュ様の御一行が……』とか言ってたし!こんな所に偉い人が来たのなんて初めてだし!」
「ふむ。いい質問だな」
 ヴェルヒドが、兄妹とジュリアスの間に割って入る。
「まあ確かに俺達は、偉い人だ」
 それから、秘密めかして声をひそめた。
「誰にも知られちゃいけない秘密の任務の途中でな。お前達、この事は友達にも言っちゃ駄目だぞ?誰にも喋らないと、おじさんと約束して欲しいな」
 秘密と約束という好奇心をくすぐる単語に、二人の顔がぱっと輝く。
「うん!」
「約束するよ!」
 デュガリアが、目を細めた。
「いい子達ですね」
 子供が相手ではヴェルヒドの言いくるめにどれだけ抑止力があるかは怪しい所だが、すぐにばれる事はないだろう。
 子供達が離れていってから、深花はヴェルヒドを見た。
「嘘は言わず、けれど真実も言わず……お上手ですね」
「褒め言葉と受け取っておこうか」
 ニヤリと笑ったヴェルヒドは、ウィンダリュードを小突いた。
「準備できたか?」
「できたわよっ」
 ウィンダリュードは、頬を膨らませる。
 外見は一番幼いくせに一番子供の苦手な女は、男に向かって舌を突き出した。
「では、行きましょうか」
 デュガリアの声に何故か二人が気まずそうな顔になるのを見て、深花は首をかしげた。
「後でお話しますよ」
 いわくありげな言い方に不快を覚え、ジュリアスは眉をしかめる。
「やましい事はありません。悪しからず」
 気取った礼をしたデュガリアは、小屋の外へと歩いていった。
「……何つうか、いけ好かねえ」
 ジュリアスは、小さく唸る。
「そう?」
 意外そうに目を見開く深花を見て、彼は歯を剥き出した。
「ああいう気取った態度を見てると、むず痒くなんねえか?」
「気取った態度って……将来はああいう態度を身につけなきゃならないんじゃないの?」
「そうなんだが……あんなのやだとしか言いようがねえよ」
「別にデュガリアさんの態度をそのまま真似ろとは誰も言ってないわよ。ただ、人を威嚇しないようにもうちょっと柔らかい態度をナチュラルに使えって事。ほら、レセプションの時みたいに優しそうな仮面被りっ放しじゃ自分が疲れるでしょ?だから……」
 何やら言い合いながら、二人は小屋を出ていく。
 二人が出ていってから、ヴェルヒドとウィンダリュードは顔を見合わせた。
「……まるで夫婦だな」
「てゆーかさぁ」
 少女は、長い髪を掻き上げた。
「話に聞くほど恐くない連中よね。バランフォルシュ様の要請を受けて支援に入ったけどさ、あたしゃてっきり問答無用であいつらに切り付けられるくらいの悶着は覚悟してたんだけど……」
「それについては全く同感だ。色々と所感の偏る奴はいるが、それは単に個性が受け入れづらいだけだしな」
 何かが食い違っている。
 違和感が、ちくちくと二人の心を刺した。
「お二方、忘れ物でもありましたか?」
 出入り口から、デュガリアが顔を覗かせる。
「ああ、今行く」
 何気ない風を装って、ヴェルヒドは歩き出した。
 たとえ協力関係にあろうと、これ以上この男に余計な知恵をつけさせるのは得策ではない。
 所詮、天敵は天敵なのだ。



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