異界幻想ゼヴ・クルルファータ-2
「ジュリアス……!」
深花は握られたままになっていた手を掴む拳に、空いていた自分の手を重ねる。
ぴくっと震えて、ジュリアスは深花を見下ろした。
首を左右に振ってみせると、ジュリアスは苛立ちを紛らわすように何度か深呼吸する。
「……おお」
「……コントロールしたな」
ティトーとザッフェレルは顔を見合わせ、感心した声を上げる。
「なんつーか、猛獣使い?」
「いや、あれを制御するとは信じられん」
ふーふーと鼻息が荒いジュリアスの代わりに、深花が口を開く。
「そんな発言をなさるからには……あなたも、神機に関係のある方なんですか?」
問われた男は、大袈裟な身振りで気障な一礼をする。
「これは失礼。僕はマイレンクォードのパイロット候補生、デュガリアと申します。初めまして、ミルカ殿」
デュガリアと名乗ったその青年は、にこりと笑ってみせた。
深花は青年の姿に、頭から視線を走らせる。
年齢は、ティトーよりやや年かさくらいか。
色の薄い金髪は嫌味なくらいのサラサラ加減で肩下まで流れ落ち、ジュリアスと同じくらいの長身にやや細身の体型。
わざとデザインを崩した軍服が、よく似合う。
洗練された雰囲気と物腰に、美形と表現して差し支えない容貌。
たいていの女なら、彼が甘く愛を囁けば腰砕けになって全てを委ねてしまうだろう。
「初めまして。お付き合いする期間は、短い事を切望しますけど」
素っ気なく言って、深花はそっぽを向いた。
「ほう?」
にべもなく自分を拒否する女性はやはり珍しいらしく、デュガリアは興味深そうに深花の横顔に視線を貼り付ける。
「フラウさんは、私の仲間です。その人が失われようとしているのにそんな暴言を吐く方と仲良くしたいとは、私は全く思いませんね」
ちらりとデュガリアの顔を一瞥し、深花は付け加える。
「万が一あなたがサフォニーに選ばれるような事態になったとしても。私は、あなたが乗るマイレンクォードにエネルギーを供給したくありません」
瞬間湯沸かし器のようなジュリアスと違い、深花の怒りは穏やかだ。
それだけに、その怒りは説得やなにがしかの手段が通じるほど生半可でない事が容易に知れる。
「これは失言」
気取った仕草で、デュガリアは一礼した。
「あなたのように愛らしい方の不興を買ってしまうとは、僕も下手を打ってしまったものだ。誠心誠意、謝罪しますよ」
ジュリアスの拳に重ねていた深花の手を取ると、デュガリアは手の甲に唇を付ける。
びく、と深花は震えた。
「お詫びに、人手がご入り用でしたらぜひ一声おかけください。損はさせませんよ」
気障な礼をすると、デュガリアは部屋を辞した。
「……なんだったの」
呆然として深花が呟くと、ティトーが答えた。
「胸糞が悪くなるくらいに気取った●●●野郎だろ」
素面では聞けない侮辱的な言葉がティトーの口から漏れたのは、フラウ誘拐に気分が動転しているからだろう……たぶん。
「あんなのがサフォニーなんて冗談でも止めてくれってもんだ。それでザッフェレル、フラウの救出作戦は……」
「吾輩から中将殿に強く具申しておく。現状では、それしか確約できんよ」
「十分だ」
満足すべき答を示され、ティトーは体の力を抜いた。
「正式に許可が下りるまでに、やるべき準備は済ませておく。二人とも、今日の所は解散だ」