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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-1

 派手な音をさせて、ティトーが机を拳で叩いた。
「フラウの救出作戦、実行を強く要請する!」
 ザッフェレルは驚いた表情で、ティトーを見つめ返す。
「ダェル・ナタルへの『穴』は、俺が私財を投じる!だから、頼む……!」
 初めて聞いた、天敵が住まう地の名。
 思わず隣のジュリアスを見上げれば、彼はつらそうな顔で深花の手を握った。
「お前はともかく、俺達は……後進がいる。フラウが殺されたらペンダントは水の神殿に舞い戻り、新しいパイロットの選定が行われ……そいつが後釜に座る」
 フラウを救わない。
 その可能性を知らされた深花は、息を飲んだ。
「それなりに訓練された神機パイロット一人を救うために天敵の地へ侵入するための膨大な準備をこなし、制限時間内に見つけ出して敵を倒し、帰還する……できると思うか?」
 それならフラウを見捨てた方が、手っ取り早いのだ。
「そんな……!」
「しかも親戚も知れない天涯孤独の女だ。ここで見捨てたって、俺達以外の誰も不服が湧かない」
 サボナ森林地帯から超特急で戻った途端にザッフェレルの元へ怒鳴り込む事になった理由は、そんな所にあったのだ。
 上層部に、フラウを捨てさせないため。
「大佐……」
 思わずすがるような目でザッフェレルを見ると、思い切り怯まれた。
「いいぞ深花。もっと見ろ」
 深花を煽ったティトーは、ザッフェレルを睨み据える。
「あんたが駄目ならガルヴァイラを脅す。それでも駄目ならユートバルトや伯母貴まで話を上げる。そこまで話を通して駄目なら……俺は、カイタティルマートを持ってトンズラするぞ」
 地位を持つ事の有利さを、ティトーは前面に押し出した。
 どれも普通の人間なら、一生かかっても使えない手段である。
 頭のいいティトーならペンダントを持ったまま官憲の手をかい潜り、一生を逃亡に費やすなどたやすい事だろう。
 長い時間を経て再び揃った四機のうちの一角がまた崩れる事になったら、軍の面目は丸潰れだ。
「ザッフェレル」
 ジュリアスも、やんわりと脅しに加わる。
「俺達が本気になれば拘束も対抗手段も意味がないのは、あんた自身がよく分かってるよな?」
 ジュリアスの脅しに、ザッフェレルは唸った。
 そう、無駄なのだ。
 たとえ兵を動員して十重二十重に個人を囲い込もうと、神機を召喚してしまえば兵など烏合の衆だ。
 深花を除いた三人は個人個人で優れた技量を持ち、下級兵士など意にも介さない。
 その深花だって、ジュリアスがかなりしごいたので剣技は割といいレベルまで習得している。
 クゥエルダイドを殺してしまった時にジュリアスがおとなしかったのは、己の罪を贖わなければならないというモラルに従ったからにすぎない。
「……誰も手を差し延べないと言ってはおらぬよ」
 慎重な言い回しを、ザッフェレルは選んだ。
「ファスティーヌ王女殿下の友人だから、多少の配慮は期待できるであろう。しかし……」
「天敵にさらわれるような人間、見捨てたって構わないじゃありませんか」
 気障な声が、四人の後ろから聞こえた。
 振り返れば、書類を片手に持った男が片方が開いた部屋のドアに背をもたせ掛けて立っていた。
「失礼。あんまり声が大きいので、廊下まで声がだだ漏れでしたよ」
 男はドアから離れると、近づいてきてザッフェレルの机に書類の束を追加した。
「……てめえ、今なんつった?」
 ジュリアスの発した低い声に、三人はびくりと飛び上がる。
 間違いなく、キレる寸前の声音だ。


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