異界幻想ゼヴ・クルルファータ-17
「けど、何だ?」
「聞いて驚け。何とあれ、ダェル・ナタル製……正確には、ダェル・ナタルでしか採れない毒草が主に使われている。リオ・ゼネルヴァの毒物を片っ端から調べても該当する物がなくて、ダェル・ナタルの方を調べてみたら……ビンゴ、だったよ」
衝撃が、四人の間に走り抜けた。
デュガリアにとっては、こんな無害そうな女の子を狙う輩がいるのかという驚き。
聞き耳だけは立てていたティトーを含めた三人には、こんな長期間に渡って命を付け狙ってきた輩が、ダェル・ナタルの人間だったという驚き。
「ね……ねえ」
かすれた声で呟きながら、深花はジュリアスの腕を掴む。
「天敵って、リオ・ゼネルヴァじゃ長期間活動できないんでしょ?少なくとも私はそう習ったんだけど、一体何がどうなってるの?」
「俺だって知るか!」
驚いたあまり、ジュリアスは思わず怒鳴り返す。
「もしかして、あっちから毒物を譲ってもらったリオ・ゼネルヴァの人間とか!?」
「何事にも例外は付き物って事さ」
冷静なティトーの声で、二人は落ち着きを取り戻す。
「事実と理論が食い違っている場合、間違っているのは理論だ。どこかに、俺達の知らない抜け道があるんだろう……ダェル・ナタルの人間がこっちに毒物を売り込むなんてありえない。そんな真似をするくらいなら、その毒物でそいつを殺すのがお互いのやり方だ」
「……だな」
ジュリアスは頷いて、深呼吸を一つした。
「取り乱してる場合じゃない。これから、何があるか分からない天敵の地へ潜入するんだからな」
「……そうね」
「少々ナーバスになるのは致し方ない事。潜入前に騒いで、かえって落ち着けたでしょう」
デュガリアの台詞に、一瞬だがジュリアスのこめかみに青筋が浮かぶ。
「……てめーに言われるとめっさムカつくわ」
「ジュリアス」
深花がたしなめると、ジュリアスはデュガリアを睨みつけてから開通しそうな門に目を向けた。
ふとティトーに目をやると、彼はデュガリアにウインクを一つくれる。
怒りっぽい相棒の抑え役を十二分に果たしてくれている事と、確かめていないだけで端からはどう見ても想いを通じ合わせている事。
彼はどちらも熟知していて、二人を傍観しているのだ。
それが分かったデュガリアは、にんまり笑う。
全く、面白いメンツだ。
「医局長、知らせてくださってありがとうございました」
深花が礼を言うと、医局長は軽く手を振った。
「いや、解析に時間がかかりすぎて申し訳なかった……幸運を祈るよ」
「はい」
返事をした直後、腹の底に響く振動が周囲に走る。
「……いよいよだ。準備はいいな?」
ティトーの声に、三人は頷いた。
「では、行くぞ」
左足がもぎ取られた。
自分のものとは思えない呻き声が、口から漏れる。
両腕と右足は既に肘下・膝下からもがれていたから、床に転がるのは局部と手足のない肉達磨だ。
「あっはっはあぁ……!」
水色の男は、もぎ取った左足のふくらはぎにかぶりつく。
そのまま肉をむしり取り、食べ始めた。
「……おい、まだ生きてるよな?」
もぎ取ったばかりの断裂面を、男は踏みにじる。
「ぐぎぃ……!」
それはもはや、声とは呼べない。
ただの音だ。
それでも、生死判定には使える。
「生きてるな」
満足そうに男は言うと、肉を咀嚼しながらナイフを手に取った。
細く引き締まった腹部に切っ先を押し当て、そのままざくりと腹をかっ捌く。
へそ下まで切り込むと、ナイフを捨ててそこに手を突っ込んだ。
ずるり、と血にまみれた臓物を一息に引き出す。