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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-16

「今の救出作戦への参加、あなたへの約束があるから僕個人としては無償でも構わなかった」
 意外な台詞に、深花は驚いた。
 報酬を巡ってティトーと激論を交わした人物が口にする言葉とは、とても思えない。
「しかし、後々の事を考えると無報酬で危険な任務を引き受けるのは賢明ではないのでね。そこの所を含み置いて、あなたには理解して欲しかった」
 自分の生死がかかった任務を、無報酬で引き受ける人間……自分なら信用したくないし、日常的に接したい人物ではない。
「……はい」
 とにもかくにも、デュガリアは危険な任務にその身を投じる事を了承した。
 今はその事に感謝して、深花は頷いてみせる。
「……ところで」
 色恋沙汰の匂いを嗅ぎ付けて、デュガリアの顔が輝いている。
「あなたの心を奪ったのは、ジュリアス少尉で正解かな?」
「ふぇっ!?」
 図星を指された深花の狼狽ぶりに、デュガリアはにまにま笑った。
「どうして……」
 見りゃ分かる、と心の中で答える。
 傍近い場所で寄り添ったり交わす眼差しがお互いに対する溢れんばかりの愛情を孕んでいたり、どう見てもそういう関係にある男女にしか見えないのだ。この二人。
「……ジュリアスには、言わないでくださいね」
 だからそのお願いに、デュガリアは驚いてまじまじと深花の顔を見つめた。
「私の思いは、彼の重荷にしかならないと思うから……知らせたくないんです」
 あれだけ露骨に絡んでおいて、この二人はまだそういう関係にないらしい。
 嫌っていたり重荷になると思うのなら、馬鹿がつくほど正直そうなあの男があんな風に接する事はないだろうに。
 そう言っても、この件については頑なそうな深花の様子からして聞く耳は持ってもらえないだろう。
 周囲はさぞかしやきもきしているんだろうなと思い、デュガリアは多いに同情したのだった。


 そして、数日後。
 魔導士達の詠唱が、一際高まった。
 上空の空気がスパークし、不気味な振動が大地を揺らす。
「……あの時みたい」
「だな」
 深花の漏らした感想に、ジュリアスは頷いた。
「あの時、とは?」
 デュガリアの質問に、深花は笑ってみせる。
「私と彼が出会った時。ラタ・パルセウムとリオ・ゼネルヴァを繋ぐ穴が開いた時も、ちょうどこんな感じだったんです」
 絶対に何度も体験したくはないこんな感覚を、この二人は何度も経験しているらしい。
 体の捌き方などを見ているとそれなりに強くはあるがすごく強いというわけでもなさそうな深花だが、なかなかどうして度胸は座っているようだ。
 深花に対する評価を上方修正すると、デュガリアは毛織りのマントを羽織り直した。
 四人とも、ダェル・ナタルへ旅立つ準備は万端に整っている。
 一行の中では一番弱い深花でさえ、その腰には小剣を佩いていた。
「ああ、いたいた!」
 場違いな医局長の声に、深花は振り返る。
 目が治ってからはすっかりご無沙汰していた男が、一体何の用事でここに来たのかと深花は思った。
「出立に間に合ってよかったよ」
 軽く息を切らしながら、医局長は言う。
「君に警告しに来たんだ」
「え?」
 深花が眉をひそめると、医局長が表情を引き締めた。
「君を狙っている毒針に詰め込まれていた毒の主成分、ようやく判明したんだけど……」
 歯切れの悪い言葉に、ジュリアスがいらついた顔になる。


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