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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-18

「肉と腸皮か……ソーセージでも作ってみるか?」
 げらげら笑った男は腹圧をものともせず、引きずり出した内臓を再び押し込んだ。
 それから針と糸を手に取り、裂いた傷を適当に縫い合わせる。
 フラウの顔を覗き込み、男は眉をひそめた。
「そーろそろやばいかな……おい、飯食って栄養つけな」
 言って漏斗をフラウの喉に差し込み、ペースト状にすり潰した食事を胃に流し込み始める。
 ペーストの原料は、目の前の肉達磨がたっぷり提供してくれた蛋白質だ。
「こんなにしても気が触れず、手足はどんどん再生しやがる。最高のおもちゃだよなぁ」
 満足げに、男は呟いた。
 よほど生に執着があると見えて、普通の人間ならとっくに死んでいるほどの激痛へ晒されているのに自決を選ばない。
 自決したならしたで、死体を辱める行為が楽しめるのに。
「サフォニーを捕らえるとこんな素敵な事が楽しめるなんてな。家の完成、もっと急がせればよかったな」
 臓物が裂いた傷を押し上げて縫合糸が軋むまで食事を流し込むと、男はフラウの首輪を確認した。
 これが外れたら、この女はあっという間に死ぬ。
 さんざんいたぶった後だし、今は回復に専念させるしかない。
 生きているなら、生きているなりの楽しみ方をしないと。
「とりあえず、俺も飯にするか……ステーキがいいかな」


 頬に叩き付けられる激しい雷雨で、深花は目を覚ました。
 時刻は夜らしく、異様に暗い。
「う……」
 一声呻いて身を起こせば、自分としっかり手を繋いだ男が傍にいる。
「……!」
 その顔色は、紙のように白かった。
「ジュリ……!」
 叫びかけて、ここは既に敵地だと思い出す。
 慌てて声を引っ込め、ジュリアスの体を揺さぶった。
 覗けた首筋に指を当て、脈拍を確かめる。
 指先に規則正しい鼓動が感じられ、まずは一安心といった所だ。
 顔色の悪さは単に、雨が打たれて体が冷えているせいらしい。
「ジュリアス……ジュリアス……!」
 小さな声で呼びかけながら、軽く頬を叩く。
「っ……」
 小さく呻いたジュリアスは、ゆっくりと目を開けた。
「……よかった……」
 何度か目をしばたたいたジュリアスは、起き上がって周囲を見回しながら深花の頬を撫でた。
 二つの行動のギャップから察するに、どうやら頬を撫でるのは無意識にやっているらしい。
「……ここがダェル・ナタル、か?」
「そうみたい」
 二人がいるのは異様にねじれた木々に囲まれた隙間のような、柔らかい下生えの生い茂った場所だった。
 人毛のような色艶の下生えや木々の樹皮がターコイズブルーなのを除けば、姿形はリオ・ゼネルヴァの植生とたいして変わらないように思える。
「ティトーとデュガリアは?」
 似たような髪色をした相棒の事を思い出し、ジュリアスは深花に尋ねた。
「分かんない。私も、気がついたばっかりで……」
 ジュリアスは羽織った毛織りのマントを振るって雨水を落とすと、改めて羽織り直した。
 フードを被るのを見て、深花もそれに倣う。
「じゃあ、まずはそこからだな。探しに行くぞ」
「うん」
 深花は腰の小剣を、ジュリアスは背の大剣と両腿脇に差した小剣、さらには腰の後ろに隠した短剣を確かめる。


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