Crimson in ChristmasU-2
引きずってやって来たのは教会の屋根裏部屋。普段使われないコトもあって埃っぽいのはご愛嬌だ。使わなくなった備品やらが積まれて滅多に人の出入りもない。そんな部屋の壁にある窓を開け放って、入り口で不安そうにそわそわしてるリーの手を引いて窓の傍に連れてきた。
「見えるだろ」
「え?」
窓の外にあるのは街の中心部。大きな通りの真ん中にある広場には人だかり。
「あ」
それに気付いたリーは外の景色からオレの方に目を向ける。
「外見てろ。もう時間だ」
腕時計で時間を見ながら、そう言った。リーが視線を再度広場に向け、オレもそっちに向けた。
「わ」
広場に聳えるユグドラシルに灯った色とりどりの明かりにリーが声を上げた。
「ここは穴場なんだよ。ユグドラシルがよく見える」
小高い丘にある教会からはっきり見える。守護神とも言える聖樹が教会から見守れる位置を陣取ったのがこの教会なわけだ。
「興味ないって言ってたじゃん」
「ねぇよ。めんどくせぇとも思う」
「なら何でだよ」
先日、さっくりと拒んだことを言ってるのだろう。否定する意味もないので認めるとうなだれながらショボくれた声を発したリー。
「でも、お前は興味あって、見たいってんなら、別にめんどくせぇとも思わねぇんだけどな」
そう言ってみるとリーは顔を上げるが、怪訝そうに首を傾げる。
「……言ってる意味が全く解んない」
そりゃそうだ。
オレは窓枠に腰を下ろして、人だかりの出来ているユグドラシルを見下ろした。
「今までは興味なかった。クリスマスなんかで欲しいもんなんて手に入らねぇから、願ったって無駄だって思ってた。賑わってるの見てて面白くもなかったし」
「……アーク、すさんでるよ」
呆れた様に見つめるなよ。失礼だな。
「オレはあんまり器用じゃねぇ」
「うん…?」
「言葉も足りないから、誤解させやすい」
「……」
沈黙は肯定だな。いつもそうだから、身に沁みてるんだろう。
「この前もそうだ。最後までしっかり話せばよかった。だから、ごめん」
自分でも驚くほど素直に謝れた。
「ええ゛っ!?」
「そこまで驚くなよ。素直に謝ってんのに」
「え、あ、ごめん……」
予想通りの反応だ。
「今日のことにしろ、リーが見たいならそう言えば良い。いくらでも一緒に行く」
「で、でも、仕事もあるし……面倒くさいんじゃ」
「今まではそうだったけど、お前が望むってんなら、話は別だ。一人だったらめんどくせぇコトこの上ねぇだろ?意味なくはしゃいでいられるかよ」
「あ、確かに」
だろ?
今までこう言ったモンは一人だったんだ。言ってなかっただけで。
「リーは人のコト気にしすぎだ。も少しわがまま言っても良いんだぞ」
「でも……」
「でも、じゃねぇ。なら、お前はドコで本音を言うんだよ」
「……」
沈黙は肯定だ。いつまでも聞き分けの良い子である必要なんてないだろうに。
「いくらでも言え。そんくらいのコトでオレが重荷に感じると思うなよ。そんな程度だったら、お前追い掛けてこの国に戻って来るわけねぇだろ」
「う」
「だから好きなだけ言えよ。それとも、オレじゃ不甲斐ないか?」
そりゃ、リアナ達には散々『ヘタレ』だの『甲斐性がない』だの言われてるから、否定は出来ねぇけどさ。
「そ、そんなことないよ! ……頼りになると思ってるよ。だけど、アークはいつも落ち着いてるじゃないか。何か、わたしだけ……楽しくても、さ」
語気に力がなく、弱々しくそう言うリーは小さく身体を揺らした。見上げてみれば、何故か泣きそうな顔。
コイツ、人の話聞いてたんだろうか?
「あのな、も一回言うぞ。オレはお前がしたいことなら、満足なんだよ。お前が笑ってりゃ、オレは嬉しいんだって」
青い目をしっかり見据えて告げたら、数拍おいて顔を紅潮させた。
「なっ、何言ってっ!」
「今まで何度か言ってきたけど、オレはお前が好きなんだよ。だから、お前が楽しけりゃそれで良い」
好きじゃなきゃ、態々こんなとこに連れてくるかよ。それこそめんどくせぇだろ。
なのに、コイツは解ってンのか? 顔は真っ赤なまま、眉を寄せだした。
「だったら、解るんじゃないの? わたしだってアークが楽しくなかったら嫌だよ? 一緒に楽しみたいんだ。クリスマスだってそうだし、他にもいっぱいある」
全く同じことを返されるとは思わなかった。
「……くっ」
思わず笑いが出ちまった。
「何が面白いんだよっ」
更に赤くなったリーは肩をいからせて怒り出した。