THANK YOU!!-3
次の日。
瑞稀は昇降口の脇にある水飲み場にランドセルを背もたれにして、
寄り掛かって座っていた。
最新作の推理小説を読みふけっていた。
瑞稀の小学校は、8時にならないと昇降口が開かないようになっている。
それまでは、校庭で時間を潰すかギリギリで学校に着くようにするかだ。
まぁ、大抵の生徒は8時前に来て、校庭で遊んでいる。
8時になったら昇降口に入り、教室に行く。
そして準備ができたら、校庭に遊びに行ったり、近くの教室に行ったりなど自由な時間になる。
これは、8時25分まで。
この自由な時間を朝休みと呼んでいる。
8時25分になったら、自分の席に着き、朝自習と呼ばれる時間になる。
これは、担任が入ってきて、決め事をしたり、クラスのためのちょっとした時間。
主に行事の事が議題となる。
これは10分しかない。35分になったらHRとなり、連絡事項を伝えたりする。
このときに、席に着いていない生徒は事情が無い限り、遅刻になってしまう。
瑞稀は小説に影が出来たのを感じると、視線を上に。
すると、そこに居たのは菜美だった。
「おはよう。随分早いんだね」
「あ、おはよ。笹野さんも早いね。」
昨日の掃除の事が頭に残っている瑞稀はためらいがちに菜美に答える。
菜美は瑞稀の真正面に座る。
「菜美でいいよ!ね!瑞稀ちゃん」
「あ・・うん、分かった。菜美」
いきなり名前で呼ばれて驚くが、友達になりたいだけだろうと頭のモヤモヤをかき消そうとする。
だが、やはり甘く感じる口調に抵抗を感じた。
「あれ?それ、文庫本?」
「うん。大好きな推理小説のシリーズの最新刊が出たから!」
本の話題になりそうで、少し嬉しくなった瑞稀はその気持ちを表情に出す。
「そうなんだ。やっぱり、頭良い瑞稀ちゃんって、そういうのしか読まないの?」
「え・・・。いや・・そうじゃないけど・・」
菜美の言葉が、皮肉にしか聞こえなかった瑞稀は少し苛立ってしまう。
それに気づいたのか、菜美は、
「あ、ゴメン。そういう意味じゃなくて・・やっぱり瑞稀ちゃん、
頭良いから本しか読まないんじゃないかって・・」
「あー、いいよ。実際推理小説好きだし。でも、ゲームもやるよ」
無意識だろう。
そういうことにした瑞稀は苦笑して答えた。
菜美は、その答えに安心したようだった。
「そっか。ゲームかー・・。私ゲーム得意じゃないから・・」
「そなんだー。でも面白いのあるし、菜美が好きになれるゲーム、あると思うよ」
「ありがとう!」
得意じゃないと言われた瑞稀はなんて言葉をかけたらいいか分からず、
とりあえず、またも頭に浮かんだセリフから言葉を引っ張ってくる。
なんとか、言葉選びの失敗は無いようだ。
お礼を言われた所で、幼馴染みである千晴が寄ってきた。
「瑞稀。おはよーさんば!」
「あ、千晴!おはよう。それ、どこのマンガから持ってきたの?」
千晴のおはようの挨拶の仕方に、覚えがあった瑞稀は笑いながら聞く。
その千晴は瑞稀のそばまで来ると、笑顔を見せた。
「ん?瑞稀のことだから何のマンガからかは分かってるんじゃないのさ〜?」
「あのねぇ。さすがに3000くらいある千晴のマンガのセリフ全部覚えてる訳ないじゃん。」
千晴は、大のマンガ好きで、千晴の部屋の天井まで高さのある本棚はマンガで埋めつくされている。
マンガの種類は大体1000は超える。
瑞稀も、マンガは好きだし幼いころから千晴の家にしょっちゅう行っているので、
ほとんどは読んだはず。
だから、千晴が時々マンガから言葉を貰ってくるのでそれを当てたりしている。
勿論、瑞稀もマンガから言葉を拝借することもしょっちゅうだ。