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疑似世界
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疑似世界 1

カタン

少年はいかついゴーグルを机の上に置いた。
そして深い溜め息を。

「やられた…」

心底悔しそうであり泣きそうな表情は家族や友達の前では決して見せない。
少年は目の前にある、鈍い灰色を写し出しているだけのモニターの電源を無造作に切った。

『ファーストアップル』

今、大人気のオンラインネットワークゲーム。冒険あり、疑似生活ありの夢と勇気に溢れた世界を演じるバーチャルリアリティの世界。少年も流行に漏れず、そのゲームに夢中になっていた。

経験値を積み、お金を貯めて手に入れた疑似マイホーム。可愛いペットとお手伝いのメイドが今日も少年を暖かく迎えるはずだった。
しかし…
その擬似的日常は普通に脆く崩れ去った。
冒険から戻った少年が戻った我が家には、何もなかった。
今まで苦労して貯めたお金やレアアイテム。ペットやメイド、そこにあったはずの安らぎさえ。


異変は3日前。『ファーストアップル』のメンテナンスを行うという通知があった。流行りのゲームは要望も増える。よりリアルに…より過激に。

少年はちょうど学校のテスト期間に入っていた為にメンテナンス期間を効率よく現実世界に利用した。

結果、テストの順位は上々。両親の機嫌もよく、嫌味を言われる事ないまま存分にモニターに向かえる時間を獲得したわけだった。
が、電源を付けるとゲームデータが消滅していた。お金もアイテムもあれほど強くした自分(キャラ)も全て…。少年は愕然とした。
「何で…何でなんだよ!」
少年はキレ、周囲の物に当たり散らした。それほどまでイレ込んでいたのだ。机やベッドを殴る蹴るなどした結果、少年は手足を骨折させ入院するハメになった。

「うぐっ!」
男は静寂を破った。
ベッドの上で、震える腕をおさえ顔をしかめる。口元からガチガチ音が鳴る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜」
ガチャリと隠れ引き出しが開き、慌ただしく注射器が取り出される。針先から2、3滴しずくがこぼれ、右腕に振りおろされた。
消えていく痛み。
クラクラする開放感。
それから数分後、その部屋から再び音が消えた。

男は笑いながらベランダから迷いもなく飛び降りた。言うまでもなく即死だった。
このゲームをプレイするとキャラと一心同体となる。つまりゲームデータの消滅は現実の自分の消滅を意味していたのだ。故に男は死を選ばざるを得なかった。そして入院中の少年も、ある日突如として容体が急変しこの世を去ってしまった。
自分の命を賭けた恐ろしいゲームだった。
この事実が明らかになるとゲームは発禁になった。死亡者を多数だし、世間を震え上がらせた事件はこうして幕を閉じた。

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