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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 47

「ほんとだよ! ねえ、キラ、ルルエイ、ねえさまはすっごくかわいいでしょ!」
 高貴な姉弟は同時に彼らに顔を向けた。
 キラとクラレイは、思わずはっと目を瞠った。二人はとてもよく似ていた。幼子と若い娘、男女の違いはあれど。
 キラには別の感慨もあった。二人が互いに似ている以上に、その相似は、完全に父親…つまり先王から譲られたものだったのだ。二人とも王妃の面影があまりない。知らぬものが見れば、二人が母親の違う姉弟とは思わないだろう。
 父と同じ歳にはとても見えない童顔で、物腰もやわらかく、よく笑う親しみやすい王だった。
 アイアダルが義母と呼んだ母太后は、エインゼルタインが二歳のときに亡くなった。約束といっても、王本人は覚えていまい。
 王は二人がぽかんと目を見開いたまま返事をしないのを不満に思ったようだった。
「キラ? ルラエイ?」
 唇をとがらせ再度問いかける。
 王姉が美しいかと問われて答えない、とんでもない不敬に気付いたのはクラレイが先だった。
「も…もちろんです、陛下。陛下の姉上様は大変、お美しく…」
 王族を賞賛するのにふさわしい、歯の浮くような美辞麗句を何とか思い出して並べ立てる。
 詩人ならぬクラレイにはそれらを創作することまではできそうになかったが、彼は少なくとも、虚言を吐く罪悪感にだけは苛まされずにすんだ。
  並べ立てる花や宝石や小鳥の名は、詩人がするほどぴったりとはいかないにせよ、彼女の容姿の形容としてかけ離れてはいなかったからだ。
 アイアダルが笑いをこらえるように上品に口元を隠す。 
「さあもうそれくらいに」
 そんなことをしてる間に、女官たちが粛々とテーブルの上の惨状を片付けていく。彼女らが退出するころには、先ほどまでの緊張感はすっかりかき乱され、宙に浮いてしまっていた。
 無理もなかった。片や言葉をつくして誉めちぎり、片や誉めちぎられた関係の二人だ。一種険悪ともとれる感情を持続させるのは難しい。
 少なくともクラレイはそうだった。彼は無防備な困惑顔で、ほほえむアイアダルを見つめていた。
「それであなたは、アリエルに会って、何を質したいと考えるのです」
 先刻よりいっそう穏やかな語り口で、彼女は言った。
 クラレイは先ほどとは打ってかわって弱々しく答えた。…いや、答えなかった。
「お許しください。わたしの考えていることは、摂政殿下に先んじて申し上げるべきではないと思います。殿下が本当に、なにか疑惑を持っておられるなら、なおさら」
 意気消沈した調子ではあるが、頑なさには何の変わりもない。
「口にしてはならないことを考えているというのね。わたくしが、結局この対談を止めてしまうかもしれないような?」
 アイアダルは抑えた声音で畳みかける。クラレイは、ほんの一瞬彼女に目を合わせてこう言った。
「…殿下は、その権限をお持ちです」
「正直ね」
 少しあきれた風に、アイアダルはため息をついた。
 キラは恐る恐る彼女の様子をうかがっていたが、少なくとも怒っている風ではない。というより、どこか可笑しがっているように彼には見えた。クラレイが気付いたかはわからないが。
 パタパタと、扉の向こうで慌ただしい気配がした。
 少し経ってから、入り口にひかえていた女官がアイアダルの元にやってきた。女官は何か小声で、アイアダルの耳もとにささやいた。
 彼女はなぜか怪訝そうに眉をひそめながら、女官に肯いて見せた。
「…通しなさい」
 アリエルがついに来たかと緊張した二人だったが、女官の案内で入室したのは別の人間だった。

 その人物をみとめ、最初に声を上げたのは国王その人だった。
「あっ、ギネー、こんにちは!」
「こんにちは、陛下。今日もお元気ですね」
「うん!」
 つい先ほど涙をこぼしたことなどすっかり忘れた様子で、エインゼルタインは力いっぱいうなずいた。
「どうしました、ギュネリ。法務院はまだ午後の定例会議中なのではなくて?」
 アイアダルは不可解そうに小さく首をかしげていた。
 ギュネリと呼ばれた女は、アイアダルに向きあい深く頭を下げた。 
「殿下に至急ご報告したき儀がございまして、おくつろぎの間をお邪魔いたしました。どうぞご寛恕たまわりますよう」
「報告が?」

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