幸子の独白 1
一あたくしは不幸者でございます。誰もあたくしに手を差し伸べてくれぬのでございます一
あたくしが生まれたのは江戸吉原、大歓楽街でございました。
遊廓の娘として生まれたあたくしは『幸子』という名前を付けられました。幸せになれるよう、と父が付けた名前も、今となってはもう只のお笑い種でございます。
で、今宵はあたくしのどんなお話が聞きたいと?
いや、わかっておりますとも。あのお話でございますね?
思えば何もかも上手く行っていたあたくしの人生が狂いだしたのは、あの時からだったと確信して止まないのです。
それはあたくしが15になった年のことでした。
花魅の嬌声が響く遊廓の片隅で、内気なあたくしはいつも一人でお手玉などをして遊んでいたのです。
『お幸、お前随分たったのに、まぁだ贔屓も付かぬ。同い年の真紅もお咲も紫子も立派に新造立ちしたのに…』
姉さん花魅の『いづ泉』は内気で、いつまでたっても客に愛想を渡せない幸子に今や苛々するだけ。これでは幸子は益々篭るだけ。
『姉様…。私は解らんの。覚えれば覚えるほど、此処吉原。私みたいな…。姉様みたいに…。』
『ほぉら顔あげんしゃい?上玉が台なし。いいか?お幸。今日はわっちの一番の馴染み、印字屋の敬二様がご予約されてる。いいか?新造買いして貰えるようしっかり気張りんしな?』