PiPi's World 投稿小説

枷の正体
その他リレー小説 - 純文学

の最初へ
 -1
 1
の最後へ

枷の正体 1

 其の人は霞んでいた。薄紅色の桜も漫ろ,俺は蝶のようにおぼつかぬ足取りで,其の空間の歪みへ手を伸ばそうとする。
「……先生,」
 俺は霞んでいる背中を撫でるが如く呟く。其の人は振り返る。今日の晴れの日に,俺に,先生は笑顔を向けていた。ただただ,微笑んでいた。

「……先生,止めて。笑わないで……,」
 紅はひらりと視界を錯綜する。其れを見て俺は思う。先生が逝ってから4度目の春が来たんだ,と。其の想いが道に広がる桜の花弁を,一瞬にして緋色に変えてしまった。ちょうど,握り締めた儘のナイフを先刻から滑り絡まる,血のように。そんなこと,あり得ないのに。俺も結構重傷だ。 鳴かぬ鳥が羽ばたく。其れが遠のくのを待って,先生が口を開いた。出来れば此の儘何も言わないでほしい。でも聞かなくてはならない。約束の4年目,今日は大学の入学式……。


,
の最初へ
 -1
 1
の最後へ

SNSでこの小説を紹介

純文学の他のリレー小説

こちらから小説を探す