美しい人 1
『桜の木って怖いな』
暖かい陽が差し込むオープンカフェ。
白で統一されたテーブルチェアーに腰掛ける二人の男女にどこか違和感を感じる。
黒く細い髪を風に揺らせながら微笑む女は、透き通る程肌が白く顔立ちからは高貴な雰囲気を感じられた。そして、どこか不思議なオーラを発しているような…そう、少し恐怖にも似た。
男の方はと言うと、顔を見ればまだ幼さ残る様にも見えるが、髪には白髪が多数混じり瞳にも若さからくる覇気を感じられない。
服装こそ流行を装うものの、長袖から出た手は骨が浮き出る程細かった。
『知ってる?桜の木の下に死体を埋めると 栄養分が行き渡って綺麗な色の桜が咲くのよ』 妖艶に輝く黒髪を耳にかけながら女が微笑む。 嘘か誠か。 男は目の前のコーヒーを口に運びながらそっけない相づちをうつ。 『…そぅ』 女はそんな男を見て再びフフッと小さく笑った。
自分の所有物を確認するような、高慢な笑みだった。舐めるように男の造作を眺め、ちろりと、唇を舐める。彼女は数人、美しいが知能の低い人間たちを飼っていた。父の代から続く、趣味のようなものだ。見目良い子供を攫い、脳の一部を改変し、気に食わないパーツがあれば片端から整形手術を受けさせるのだ。
男の前には紅茶、女の前にはシフォンケーキと、ライムの浮かんだジントニックのグラスが並んでいる。女はぐちゃぐちゃとシフォンケーキをかき混ぜ、原型を留めない塊になったところで、両手で掴んで食べた。ぺちゃぺちゃと咀嚼する音とともに目がとろりし、冷たい微笑は、その瞬間だけ赤ん坊の浮かべる純粋な笑みに変わった。
客が少ないために女の行為に眉をひそめる人間はいなかったが、女なら衆人の注目する舞台の上ででも、その通りに食べるだろう。
それから、女は薬をとりだして、ジントニックで飲んだ。