携帯 1
―新着メールはありません―
携帯の画面に表示された文字に悠夏はがっくりと肩を落とした。
何度センターに問い合わせても答えは一緒。
「鳴らない携帯なんて何の意味ない」
悠夏は誰もいない教室で誰にともなく呟いた。
一年前に彼氏が出来て、一ヶ月前に彼専用の携帯を買った。
他機種同士だと電話もメールもお金がかかってなかなかできない。
だから...
同じ機種にすればもっと連絡が取れるとそう思ったのに。
悠夏は鳴らない携帯を見つめる。
ずっと憧れだった、彼氏専用のお揃いの携帯。
手に入れた今は
持つ前よりずっと寂しくなっただけだった。
*
私の名前は【高橋悠夏】。
悠夏と書いて「ゆか」って読む。
名前は少し変わっているけど、中身はいたって普通。
とりわけ美人なわけでも、勉強ができるわけでも、運動ができるわけでもない。
唯一自慢できることと言えば、色素が薄いこと。
白い肌に飴色の瞳、麦色の髪。
それが私と他人を分けるライン。
この髪の色でひどいイジメにあったこともある。
だけど黒く染めようと思ったことはない。
私は私を誇りに思っているから。
そう思っているのは表面だけで
本当はただ怖いのかもしれない。
私という個が「みんな」に溶けてしまうのが。
私みたいに内気で地味な人間は、少しくらい目立たないといないのと一緒だ。
そうはなりたくなかった。
私は確かにここにいるのだから。
*
「なつ!」
私は名を呼ばれ、我に帰った。
誰もいないこの教室でいったいどれくらいの時を過ごしていたのだろうか?
それはさておき、私は呼ばれたのだから返事をしなくてはならない。
私は声がした方に顔を向けると
「なぁに?莉奈」
と答えた。