ラブ・サスペンス 1
―2032年 8月20日 AM8:00
この日、日本では世界の歌姫と称されるエレナ・ハミルトンのコンサートが行なわれるということで、朝から町は活気づいていた。その町のホテルの一室で、今日の主役であるエレナはマネージャーと会談していた。
「ええ、コンサートは今夜の6時からですから、時間は十分にありますわ」
「町に出歩くのは危険です。今夜のコンサートが終了するまでお待ちください」
「つまりませんわ……」
エレナは立ち上がりベランダに出る。それを見たマネージャーは深くため息を吐き、テーブルに置かれた紅茶を一口すすった。
「……ッ!?」
マネージャーはカップを落とし、苦しみもがく。それに気付いたエレナはベランダから駆け戻ると、彼女は大量の血を吐いて倒れてしまった。
「フィリーナさん、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
だが、エレナの叫びも虚しくフィリーナは息絶えてしまった。
―AM8:03 六本木某マンション
その頃、久しぶりの休暇に寝坊していたマコトの家に電話の音が鳴り響いた。まだベッドで眠っていた彼は、手を伸ばして電話をとる。
「……はい」
『マコトか? 休暇のところ悪いが、出てきてもらえないか?』
電話の相手はロバートだ。同じ組織の同僚で、幼い頃からの友人でもある。彼の電話にマコトの表情が変わった。
「なにかあったの?」
『殺人事件だ。詳しいことはこっちに来てから話す』
「うん、わかった。10分でそっちに行くよ」
マコトは電話を切り、ベッドから起き上がった。
―AM8:09
事件が起きたホテルには警察が駆けつけ、包囲線を張っていた。まず、彼らが容疑者として目をつけたのは部屋に滞在していたエレナ・ハミルトンである。
「私は何も知りません! ベランダに出ていたらフィリーナさんが倒れられて……先程から何度も説明しているではありませんか!」
「ワカッテオリマス、確認ノタメデスヨ、エレナ嬢」
片言の英語で話すのが、今回この事件の捜査を任せられた警視庁捜査一課のソウゴ・タダミ警部だ。