少女国家 1
アルテシア公国。
10代半ばの少女たちが国を支え、統治している国家である。
「……はぁ、どうすればいいのかしら」
その中心に立つ若き女王、ニーナ・エレンベルクは頭を抱えていた。
発端は西側諸国で起こっている戦乱。
アルテシアはそれには巻き込まれていない分まだ良いのだが、その西側諸国から流れ着いた難民が多数押し寄せているのだ。
その中心となっているのがジャジルという青年と、その妹のトレヴという少女。
この2人こそが、ニーナの悩みの原因である。
戦乱続く故郷を離れアルテシアにやってきた2人。
「妹は占い師なんだ。占いが外れたことは一度もない。この国の力にきっとなれるはずだ」
兄のジャジルはそうニーナに向かって言った。
(…じゃあ、故郷が戦火にさらされることも予測したのかしら?)
直接そう聞けるわけがない。
ニーナの悩みは収まらない。
兄妹は緊急的に設置した難民収容用キャンプに身を置いている。
「どうします?彼らの話をもう一度聞きますか?」
秘書官のアリッサがニーナに尋ねる。
「そうねぇ…考えとくわ」
ニーナはどこか気乗りしないところがありながらも、このまま彼らを野放しにできないという思いも抱きアリッサを退出させた。
ーー夜、まだ肌寒い風が吹き付ける難民収容キャンプ。
「まだか…まだなのか…」
眠れない。寝付けない。イライラする気持ちを募らせながらジャジルはテントを出た。
「待ちなさい。もう夜中よ」
それを止めたのは収容所の守衛を務めるシェリーだ。
「俺たちはいつになったらここを出られるんだ?ずっと待ちぼうけなのか?あなたたちの国にもいいことじゃないはずだぞ」
「すべては女王陛下がお考えになることよ…とりあえず、夜が明けるまで待ちなさい」
「でも…」
「じゃあ、キミはどうしたいと言うの?」
シェリーの言葉にジャジルは返すことができず、視線を逸らす。
「私の目を見て、気持ちを伝えて」
シェリーのブルーの瞳に、ジャジルは吸い込まれそうな感覚を覚える。
同時に不思議な魔力のようなものも感じた。
「お、おま……お姉さんは何者なんだよ」
「私はただの衛生兵よ」
「アンタに物申したところで効果なんてあんのかよ」
「でも、言ってみないと意味がないわよ」
「…………」
しばらく考えたのちジャジルはゆっくり口を開いた。
「妹の占いの結果を、この国の女王陛下に伝えてほしい」