俺の開拓物語 4
「地球にはいないタイプの生き物だな。しかし……なぜ奴は人間の幻覚を見せることができたんだ?」
「………脳内をサーチされたと考えるしか、ありませんね。マスターが着陸の少し前に頭痛を感じられたでしょう。あの時、私も頭の中を探られるような違和感がありました」
「相手のデータを使ってたわけか……面倒な。だがこれからは気を付けよう」
俺はあの幻覚捕食動物のデータを、データベースに入力した。
それから程なくして、「木星」号に帰ってきた。
このまま船自体を住宅として使うこともできるが、開拓するからにはいずれはどこかに家を建てたい。さっきのような危険な生き物がどこにいないとも限らないから、それはしばらく先になるだろう。
すると、船内の俺の部屋にヒルデガルトが現れた。
「あの、マスター?」
「どうしたんだい?」
「その……あんな気持ちの悪いものがいるなんて、怖くて……」
おずおずと近づいてきたヒルデガルトを、やさしく包み込むように、抱きしめる。
豊かなふくらみが、俺の胸に当たって柔らかくひしゃげる。
女らしい柔らかい身体は、さっきの事が恐怖としてぶり返し、こわばっているようだ。
だから、俺も彼女を安心させてあげようと、やさしく抱き続ける。
「俺が連れて来たんだからな。怖い思いをさせてすまない」
「いえ、いいんです。マスターに従うのが私の役目ですから」
「バイオノイドとはいえ、君も女の子なんだから、怖いものは怖いでいいんだよ」
彼女を慰めながらも考える。
なんであの触手はよりによって褌を締めた屈強な漁師達のイメージを投影したのだろうか?たまたま海のそばに居たから海に居そうなふさわしい姿になった、それだけなのだろうか?
もっと穏便に騙せる姿はあったはずだ。可愛らしい動物や惑星開発の職員とか…。
考えていても、理由はわからない。単に近接しての襲撃捕獲が目的で捕獲から漁師を連想しただけかもしれない。
それより、ヒルデガルトには悪いことをしてしまったと思う。
「……やっぱり、怖いです。気持ち悪い生き物でしたし、マスターのために存在するのに、守り切れなかったらと思うと……」
「気を付けるよ。それに、あんな触手生物ってのは、昔の地球でも気持ち悪いって考えられていたんだ。ヒルデガルトは何も間違っていないよ。第一、俺を助けてくれたじゃないか」
「マスター…」
涙を浮かべた瞳で、俺を見つめてくる。少しずつ安心できて来たのか、抱きしめた彼女の体からは、さっきのようなこわばりは感じなくなってきた。
ピコーンと、通知音がして空間ディスプレイが一つ開いた。
さっき飛ばしておいたドローンからの映像だ。俺達を襲った触手生物の存在を各機にも伝えておいたら仕事をしてくれた。海岸上空を飛んでいた1機が、俺達を襲ったのと同じ触手生物を探知してビームで焼き潰している映像が映し出されている。
両手を口に当てて、ヒルデガルトが驚いている。
「まあ……」
「とりあえず、これで数は減らせておける。これからはそうそうやられはしないだろう。さて、日も暮れて来たし、夕食にしよう」
「でしたら、とびっきりおいしいオムライスを作りますね」
ようやく気持ちが回復してくれたらしく、ヒルデガルトと俺はキッチンへ向かった。