大混乱… 1
群衆の一部から、ざわめきが起こった。寄せたり引いたりで揺れ動く。中には、早速剣の柄に手をかける者もいた。
場の空気が悪くなってきているのは、誰の目にも明らかだ。このままでは、最悪の事態に陥るかもしれない。
その時、群衆の中から一人の男が進み出てきた。
大柄で筋骨たくましい男だった。やや浅黒い肌からすると、南方の人間かもしれない。
簡素な革鎧だけを身につけてはいるが、それも古びてあちこちに穴が空いている。
男はいかにも戦い慣れた様子で悠然と群衆の中を歩いていく。
「静まれえ!」
男が一喝した。
声は大きいが濁ってはおらず、腹の底に響き渡るような重さがある。人々はぴたりと騒ぐのを止めた。
俺は男に見覚えがあった。確か、ランクS冒険者チームの〈金の壺〉にいたゴンズのはずだ。