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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 53


目的。
そう、女たちが、宿の女主人の言う『天女』であることに私は気づいていた。
飛竜に乗って現れ、男をさらう。
追尾できないのも納得できる。
「リオン!」
女は速かった。
リオンに注意を喚起するが、彼は先刻の私同様、目の前の攻防に夢中になっている。私の声への反応が遅れた。
リオンが背後から近づく女に気づいたのは、延髄に手刀を打ち込まれた時のことだった。

リオンの身体ががくりと、闘っていた女の腕に崩れ落ちた。
恋人の抱擁のようだ。
そう思った瞬間、頭に血が上った。私は剣を拾うことも忘れて走った。
だが地を蹴った瞬間、バサ、という音とともに突風が背後から叩きつけられた。
倒されはしなかったが、足を踏ん張り立ち止まってしまう。
背後の羽指竜が翼を広げて羽ばたいたのだ。

砂埃が舞い上がり、おぼろになった視界の中で、剣を持った女がリオンを脇に抱えて、もう一頭の竜の頭に飛び乗ったのが見えた。
バルディッシュの女が、風に足をとられたレネーをやすやすと捕らえる。
そして同じ竜に乗り込んだ。

「待っ…!」
待てと言われて待つやつはいない。
二人の女とリオンたちを乗せた竜は、地を蹴って崖に飛び出した。
少し落下してから空中で身体を反らし、バサリ、と巨大な両翼が開く。

ふと、竜の背に立つバルディッシュの女が、顔をこちらに向けた。
面頬の奥で、黒ぐろとした目が私を見留めたのがわかった。
冷たい目だと思った。敗者への憐れみの色が見えた。
思い込みではない。女は、中断した闘争に未練一つ残さず、私から視線を外した。
それを見て私は。

私は、明らかに冷静さを欠いていた。
でなければこんな無茶はしない。闘うことも命のやり取りも決して嫌いではないが、無駄に命を投げ出す趣味はなかった。
敗北の二文字と、二人をまんまとさらわれた無力に、逆上したのだ。
私は助走をつけて、崖から跳んだ。

竜が、もしもう少し速く推進を始めていたら、そのまま落下してジ・エンドだっただろう。
だが運はまだあった。
私は竜の短い後肢に、取り付くことができた。




遥か下方を、並行して無人の羽指竜が飛翔している。
しばらく右腕一本で足指にぶら下がりながら、私は思案していた。
大剣を持ってくる余裕はなかったから、むろん徒手空拳だ。考えなしに跳んだはいいが、ここから突き落とされては元の木阿弥である。
目を閉じて耳を澄ませた。状況を把握しておきたいところだ。
しかし、時おり起こる羽ばたきの轟音と、飛翔に伴う強風に、竜の背にいる連中の様子はほとんど伝わって来ない。
私はやむを得ず、竜の後肢に身を伏せて、女たちのいる背を覗き込んだ。

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