おてんば姫、ファニーの冒険 72
「…姫が誘拐…」
「なるほど、街の冒険者達はこれが目当てでしたか。」
ティーエは腕を組み、考え始める。
(相手が盗賊団…望みの報酬として我々に協力を求めるのも手ですが、出来れば先を急ぎたい…
ステファン公子の移動中に追い付き、奪還したい…)
うむ、と考えをまとめてファニーの方を向く。
「姫様、ここは先を…」
「アンナ! ライズ! 先ずは情報収集!」
聞いちゃいない。
「あの…姫様…?」
「ラーストチュカ達も聞き込みして。 絶対助け出すんだから!」
最早こうなってはファニーは止まらない…
「ティーエ………ドンマイ。」
去り際のライズの言葉が、何故かティーエの心に響いた…
半刻後、だいたいの情報が集まった。
誘拐されたのはエドモンド5世の娘であるフローラ姫である。
2週間ほど前に郊外にあるミスラ神殿への参拝の帰りに掠われたそうだ。
姫誘拐の報を聞いたエドモンド5世は、ショックで倒れ、国政に手をつけられない状態だ。
犯人は盗賊集団『狩猟会』。
その戦闘能力は正規の騎士団すらしのぐともいう。
不思議なことに彼らは未だ何の要求を出していないそうだ。
彼らは王都西にあるボーレス灯台を根城にしてるそうだ。
大体の事件のあらましは分かったが、詳しいことはほとんど分からなかった。
第一に誘拐犯の目的がわからない。
普通なら身代金の要求など出すが、王宮に届いた盗賊団の手紙にはただ姫を預かったっと言う言葉と、証拠として出された姫の持ち物である宝飾品だけで、具体的な要求は無かった。。
しかし、ティーエには盗賊団の目的がおぼろげながらわかっていた。
「これは推測ですが、敵の目的はドーリスの国政を混乱させることにあるのでしょう」
ドーリス王エドモンド5世は有能であったが自負心が強く、他人の助言を聞かない人物だった。
全てを自分で決め、宰相を置かず、騎士団長も自分が兼任していた。
それでもエドモンド王は優秀であったから国政に悪影響は無かったが、家臣たちからは自主性というものがなくなってしまった。
つまり自分で責任を取り、行動するという者がいないのである。
そのため国王が倒れてからドーリス王国の国政はストップしてしまったのだ。
もっともこうした事情が巷に知れ渡ったのつい最近のことだ。
「これでわかりましたよ、何故ドーリスがこちらの要請を聞かなかったのか、返答を出したくても、出せる人間がいないのですから」
ファニー達は宿屋の一階にあるパブで食事をしながら、これまで集まった情報の検討をしていた。
「それにしても無責任な話ね、王様が倒れたから何も決められないなんて」
ファニーが怒るのも無理がない。
もしドーリスが旧街道を封鎖していたら、魔王軍もそう簡単に逃げることなどできなかっただろう。
しかし、ドーリス騎士団はかってに騎士団を動かして後にエドモンド王から叱責を受けるのを恐れて何も行動しなかったのだ。
「まあ、今更あーだこーだといっても始まらねえよ。今は攫われた姫様を救い出すのが先決だ」
珍しくライズが真面目な顔をしている。
(こうやっていつも真面目な顔してるとかっこいいんだけどな)
ファニーがそう思っているのを知ってか知らずか、すぐに面相を崩していつものヘラヘラ笑いを浮かべる。
「それにうまくいけば、お姫様からご褒美のチューをもらえるじゃん」
そう言ってグフフだらしくなく笑いあげる。
(この男は…どうして真面目にできないのよ)
そしていつものごとく、顔に立て筋を浮かび上がらせるファニーだった。