妹(スール)は男の娘!? 2
遅刻しそうだとか、そういうわけじゃないんだけど、なんか一人でいるのが心許ない。
出来れば猛ダッシュで教室まで駆け込みたいけど、それは校則違反。
(校内はもっとも、校外でもダメだって)
周りを気にしながら、早歩きで校門をくぐり、教室まで…
「ちょっとそこの貴女」
「はいっ!?」
「お待ちなさい?」
「わ、私、ですかっ!?」
「目の前にいるのは貴女だけよ?」
な、なんかめんどくさいことになった…!!
しかもなんか異様にイライラしてないこの人?
恐る恐る振り向く。
その先には、俺より少し背の高い、ロングヘアの美人がいた。
目が合った。言葉が出なかった。
その場に立ち尽くしてしまう。
「ちょっと、じっとしてなさいね」
「は、はい…」
やっと、絞り出すように声を出す。
彼女は俺の肩から首の辺りに手を伸ばす。
「タイが曲がっていてよ」
「あ…」
…身だしなみはきちんとしておくのがここでの鉄則。大失態である。
彼女が曲がっていた俺のタイを直す。
「これでよし。今度からは注意されないよう、気をつけるのよ?」
「は、はい…」
「それじゃ」
厳しい言い方だったけど、彼女は柔らかな笑みを浮かべていた。
…それに、俺は見惚れてしまっていた。
長い黒髪をなびかせ、彼女は颯爽と立ち去っていく。
その後姿を、ただ見送っていた。
…結局、教室についたのは予鈴がなるギリギリ前のことだった。
「ごきげんよう、翼さん。今日は遅かったのね」
「あ、ごきげんよう…」
前の席に座る女の子が声をかけてきた。
榎本ちなみ。
ツインテールの可愛い子だ。
入学以来、何かと俺に気を使ってくれる優しい性格の子。
「まあ…いろいろあってね」
「そうなんだ」
視線の先では、歩が別の女の子と楽しそうに会話していた。
…まったく、今日はお前がいなくて大変な目に…
…いや、いなかったからこそよかったのか?
教室に来るまでタイが曲がってるのに気づかなかったら先生か誰かに注意されて、それこそ恥さらしだったはず。
…だとしたら、あの先輩には感謝すべきなのだろうか。
しかしいったい何者だったのだろう。物凄い美人だったけど。
―その日は、そんな朝のことを考えてばかりで、イマイチ集中できなかったような気がした。
…翌日
今日は歩と一緒に登校。
入念にチェックを重ね、タイが曲がっていないと確認。
無事?教室までやってきた。
「ごきげんよう、歩さん、翼さん」
「ごきげんよう」
…この挨拶、未だに慣れない。
歩はいつものように自分の席周りで他の子と話している。
俺も早くああやって仲良くなりたいものなんだが…
「翼さん、ちょっといいかしら?」
「あー、うん?」
俺のところにやってきたセミロングの女の子。
橋本雪絵。
確か写真部の子で、常にデジカメを持ってたような。