転性能力を授かりました 1
「ゴゴゴ…」
俺の住むY県D市には、軽い登山に向いた山がある。
浪人生の俺は、早朝の散歩にこの山を歩くのが日課だった。
そう、あの日も。
ニュースでしか見たことがない、激しい揺れに襲われた。
地震だ!と気づいた時にはもう遅く、俺は地割れに飲み込まれていた。
俺の人生も終わりかと、走馬灯のように記憶が駆け巡る。
そして、目が覚めた時、俺は石造りの神殿にいた。
目の前には、ビジネススーツ姿の綺麗なお姉さんが、申し訳無さげに立っていた。
「ここは…??俺は死んだはずではそれにあなたは?」
「ここは神々の世界です。人間があの世と呼んでいる場所です」
死んだ…と思うが、あの世ってのはこんな場所だったのか?
それに彼女は誰なんだろうか?神様がスーツ姿ってのも聞かないし。
でも、賢そうな美貌を持つ彼女は、やり手のビジネスパーソンか優れた学者のように見える。
「貴方が言われた通り、貴方は地震で亡くなりました。ここは、冥界や神々それぞれの世界を繋ぐ、通路に当たる一帯です。実は地球の神々にお願いして、貴方の魂を私達の世界、エルドナウムに引き取らせていただきました。申し遅れましたが、私はエルドナウムの学問の神をしている、エメリーシェです。財前 疾風さん」
「死んだのは……覚悟してたけど、エルドナウムに引き取るって一体どういうことなんだ?」
「もう一度、新たな人生を生きていただきたいのです。ただし、エルドナウムの民として」
エメリーシェと名乗った女性が、楚々とした所作で頭を下げる。胸元くらいの長さのストレートヘアが、さらっと流れた。いや、それよりも、新たな人生ってどういうことだ?
「新たな、人生?」
「そうです。もう一度現世で人生を送っていただきます。いわゆる転生というものです」
「転生…ってあの異世界転生?!」
「ああ、あなた方の世界ではそう言うのでしたね。もちろん今までの記憶や知識も持ったまま転生していただきます。あと、少しばかりですが魔術師の能力も差し上げます」
「マジか!?!」
「本当ですよ」
ニコリとエメリーシェさんが微笑む。
俺が浪人生してたのも、元はと言えばライトノベルの読みすぎで勉強不足だったせいだ。
その俺が異世界転生って、マジだとしたらこれ以上の幸運は無い。どうせ地震で死んだ身だし、嘘だったらその時は諦めよう。そんな気持ちで俺はエメリーシェさんを見つめた。
「あの…そんなに見つめられるとちょっと…」
「あ、すみません」
俺は興奮していたらしい。見つめられたエメリーシェさんは、綺麗な顔を紅く染め、恥じらうように少し背けている。
申し訳なくなって俺も視線をそらし、謝罪した。
ちょっと慌てた様子で、彼女は話の続きを始めた。