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港町リャン
官能リレー小説 - その他

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港町リャン 1

港町リャン
潮風と澄んだ空気に包まれた活気ある町。
人々の愉快な笑い声と蒸気船の汽笛が響き渡り、海鳥の鳴き声と波が立てる静かな音が優しく町を包む。
「ああ…ようやく帰ってきた…」
そんな美しい港町に一人の男が帰って来た。赤い髪と髭を持つその男は、潮風に煽られながらも町の中をどこか物悲しそうな表情で歩いていた。
「みんな、俺のことを忘れてないといいんだけど…」
男はそう呟きながらゆっくりと歩みを進めるのであった。
男がふと立ち止まると、そこには小さな広場があった。そこはかつて彼が友人たちと共に遊んでいた思い出の場所であった。
(昔はよくここで遊んだなー)
そんな郷愁にかられながら彼は一つため息をこぼす。
「みんな、俺の事なんてもう忘れてるよな…」
そんな彼の独り言は潮風にさらわれて誰の耳にも届くことはなかった。彼はその場に座り込むと静かに目を瞑った。
静寂が辺りを包む中、男は昔の思い出に浸っていた。この広場で友人たちと遊び回った日々、そしてその後に続く悲劇。
(どうしてあんなことが起きてしまったのか…今考えても仕方ないか)
男の脳裏にはあの時の光景が浮かぶ。それは彼の心を深く抉るような出来事であった。だが彼はその記憶を振り払い、再び目を開ける。
目の前に広がるのは青い海と青い空、そして白い雲。
あの頃と何も変わらずに男を包み込む、どこにいても男を見ているような当たり前の光景。
そのことに気づくと彼はまた一つため息をこぼした。

「…フェイ?」
ふと聞こえてきた呟きに男は強烈な懐かしさに襲われて、自然に1つの名をこぼす。
「イーリン、か…」
男が声のした方に顔を向ければ、嬉しそうな安堵したような驚いたような表情の女が、こちらを涙目で見ている。
ずいぶんと可憐で愛らしいお嬢さんであるが、その顔立ちに幼き日の友人の面影が重なって見えた。
「フェイっ…フェイ、あぁ良かった!」
胸元にトンと衝撃がくると、視界の端に深い青に似た黒が広がる。力をこめれば折れてしまいそうでありながら、温かく柔らかな感触に無性に胸が満たされていく。
「イーリン…ただいま…」
「ぅん…うん、おかえりなさい。フェイ!」
どちらともなく背中へと腕をまわし、男と女は互いの存在を確かめ合うようにいつまでも抱きしめ合っていた。
やがて太陽も山の向こうへと落ちていき、海の方から空は夜の黒へと変わり始める。朱に染まる空に海鳥の鳴き声が響き始め、2人はそっとその身を離した。
「フェイ…寝るところは決まっているの?」
「いや、戻ってきたばかりだからな…これから探さないと…」
男がそう伝えると、女は嬉しそうな笑みを浮かべ次の言葉を発する。
「それなら、うちに来て? 今の時期なら人手が必要だもの、部屋ならあいてるわ…」
男はそろそろ漁の最盛期だったと思い出す。昔はこの時期になると家族が忙しく、手伝いがなければフェイもイーリンも友達と集まって遊ぶしかなかった、と。

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