大淫者の宿命星 17
「お祖母様の考えはわかっているつもりです。一族の真の後継者はただ一人だけ。他の候補者たちがこの人と私が契りを交わしたおかげで最強となったと思ったならば、真の後継者とは認めずに反逆するとお考えなのですね?」
「わかっておるではないか」
「だから、この人に他の後継者候補となる者たちを抱いてもらい、それでも私が最強であることを他の者に認めさせようと言うのですか?」
「それだけではない」
「もしも、私とこの人の婚姻をお祖母様が認めようとなさらないのであれば、私は……」
「一族の後継者候補である立場を放棄して、さらに野に下り、逃げ続ける。この者と睦まじく暮らすためだけに、一族の掟に逆らうつもりかえ?」
ふぅ、と老婆がため息をついてそう言った。
「その覚悟はできております」
よくわかっていない後継者争いの話はさておいて、老婆がなぜ一族の女性たちとやらせようとするのか、俺なりに考えた。
俺とセックスすることは、この一族の者たちにとって霊力を補充するだけでなく、バワーアップすることになるようだ。
彼女以外の女性たちもパワーアップさせたい理由とは何だろう。
「婚姻は認めよう。そして、我が一族の全てのおなごを大淫者の宿命星の男が望むままにまぐわることを許可する!」
老婆は彼女にそう言い放つ。
すると、老婆は俺のそばに近づいて、しゃがんで手を重ねるように握った。
――よろしく頼みましたぞ。これで思い残すことはおぬしに抱かれておらぬことぐらいじゃ。
彼女と俺は老婆の立ち去る老いた小さな背中を見つめていた。
「あなたを後継者争いに巻き込むつもりはなかったのに……」
「でも、結婚は許してくれたじゃないか」
夕暮れの中を、俺と彼女は老婆のいる神社の長い石畳の道を歩いていた。
彼女は肩を落としながら、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
鳥居をくぐってやたらと長い石段を降りながら、考えていた。
彼女だけが、パワーアップしたとして他の後継者候補がそれを理由に認めない、と言い出したとすれば、彼女は霊媒師であることを放棄するかもしれない。
そうなれば、彼女にとって俺は結婚すれぱ重荷でしかなくなってしまう。
それでも彼女は俺と結婚するのかどうか。
現在の一族のトップは誰か。
最強の霊媒師はあの老婆だ。
「もし一族のトップになる者が誰もいなければどうなる?」
「誰もいなくなるとは思えない。けど、それは霊媒師が組織として活動できないぐらい人数がいなくなった時ね」
――その危機にそなえて主力全員のパワーアップを狙っているのかも……。
老婆が握った手の感触が、まだ俺の手に残っているような気がする。
俺は、重要なことを老婆に聞きそびれてきた。何で俺とセックスすると、彼女の霊力が補充や強化されるのか説明してもらっていない。
老婆も彼女もそれが当たり前のように話をしていた上に、結婚の許可の話になり、聞きそびれた。なんで、彼女の一族と俺がセックスするとそんなことになるのか、ちゃんと聞いておくべきだったな。
大淫者の宿命星とやらが関係しているらしい、ということしかわからないまま、俺は彼女と老婆の暮らす神社から帰ってきてしまった。
「あの神社、あと何人の人が暮らしているの?」
「お祖母様だけしかいないよ」
「え、なんかちゃんと掃除されて、ちりひとつなかったじゃんか」
「式神に掃除してもらってるのよ」
俺には聞き慣れない言葉がまた出てきた。シキガミって何だろう。
「陰陽道の法術で、そういう術があるの」
夜道の山道をフェラーリを器用に運転しながら、彼女が答えてくれる。
これ以上、あれこれ質問して崖から転落なんて嫌なので俺は携帯電話で検索した。
この式神って有名なんだな。
俺が知らなかっただけか。
おふだに呪文を唱えると、伝書鳩みたいに飛んでいったり、呪いをかけると相手に危害をくわえたり、あの老婆はお掃除に使っているのか。
なんかハイテクを駆使した電化製品のような使い方だが、山の中で水は井戸や泉がうらの林の中にあるが、電気がないところで暮らしていくには、そうした工夫が必要なのかもしれない。
ふもとのあたりにくると携帯電話も電波を拾ってくれるが、神社では携帯電話が使えなかった。彼女によると神社は結界内にあって老婆が会いたくない相手は、実力行使で撃退されるそうだ。