双子の宿命 1
「圭、代わりに顔出しといて」
「女子会ぐらい自分で出ろよ」
「ああいうノリって苦手なの。非生産的だし」
「気軽でいいじゃん」
「やなのよ、こっちから振るネタ無いし…年上の人もいるし」
「そんなの、適当に流せばいいじゃん」
「いいの?実力テストや追試、誰のおかげでいい数字出せたと思うの?」
「それは、体育の補習でチャラだろ」
「作業の難易度が違うわよ」
圭と麗は双子だった。性別が違うので、すべて一致しているわけではない。
姉の麗ははっきりした印象の顔つきをしており、やや背も高くてスタイルも良かった。
弟の圭は温和なイメージの地味な顔で姉よりも肩幅がやや狭くて全体に細くて中性的だった。
中身はメンタルや実力では麗が上で、圭は劣化バージョンという言葉が似合っている。
持ちつ持たれつの形で入れ替わりは行われていて、同じ単位目当てでも麗の手助けは圭の高校時代で重要な役割を果たしたのに対し、圭が姉の代わりをした際はジャージ姿でグランドを走るだけだった。
「あんまりしゃべらなくていいけど、それなりに見えてくれないとね」
「結構女子力出すね」
「スカートとヒールのある靴だと歩き方も変わるから、まずバレないわ」
麗がチュチュスカートを出すと、圭は女らしすぎると面食らうも、ふんわりして揺れるスカートは丸みのない腰回りを目立たせないし、トップスも肩や二の腕を覆うパフスリーブを選ぶ。
圭の喉仏は目立たないし、体毛も薄くて長い靴下をよく履くせいか脛毛もほとんどなかった。
「あんたの下着はこっち」
「こっちって、女物だろ?」
「そんな貧乳じゃ恥ずかしいから、人工乳房とホールドの強めのブラ」
いつのまにか麗は圭を女装させる用の下着を用意してあった。しかし、ショーツはそのままで、間違ってもはみ出したりする程のサイズはないと彼女は知っており、ガードルどころかパンストで押さえれば充分と理解している。服やブラがないほどのサイズではないが、麗のバストは美乳と呼べるサイズである。
「とりあえず、首下からね」
麗がそういうと圭は全裸になってショーツを履くと、ブラはパッドよりも平坦な上に装着して膨らみと丸みを出すシリコンバストを貼り付けてからそれを包むようにカップを当てて彼女が背後からホックを止める。トップスとスカートも程よくフィットしてるのを確認すると、圭をドレッサーの椅子に座らせる。
「あんた、土台に癖がないから化粧映えする顔ね」
「姉ちゃんと同じはずなんだけど」
「私はおちんちんないわよ」
麗がメイクしていくと、自然なカラーでありつつ存在感があってチークとぽってりさせた唇が健康的でありながら素肌っぽいセクシーを出していた。
「ほてってるように見えない?」
「これでもピンク色よ、髪と合わせたら変わってくるわ」
「自分じゃ思いつかないセンスだ」
「男と女じゃ見る所も違うからね。いってらっしゃい」
「うん」
「そうじゃなくて」
「行ってくるわ、姉さん」
「その意気よ」
厚化粧だとニューハーフっぽいのでバレにくいと思えば安心材料だが、セミロングでライトブラウンのふんわりしたセミロングのウィッグを頭に乗せられると、改めて鏡を見て圭は一気に変身したように感じる。
バッグを持たされてチークネイルを塗られると、部屋着の姉より女らしいと感じた。しかし、靴を履いた時にサイズに違和感がない時点で双子だからかと思う一方、入れ替わりでも制服や体操服の頃は気楽だったと思い出しながらバス停まで行って来たバスに乗る。
乗客自体少なく、車内で周囲の視線も意識せず終点の駅前で降りる。
「麗、やっと顔出してくれたわね」
「涼子さん」
「会うのひさしぶりね」
「理緒」
「元気でやってた?」
「愛華」
圭は移動中に届いたメールで女子会のメンバーについて知っていた。年上の涼子の印象は分かりやすく、特に親しい愛華は眼鏡をかけているだけあって、全然疑う様子もない。しいていえば、理緒が童顔だけど腹黒で油断できないとメールのままだと彼は思った。要領のいい姉をすべて真似れるわけではないものの、涼子をそれなりに立てておけばうまくいくと推測し、三人と同じように集まってトイレにいくかのように広がって道を歩き、おしゃれな居酒屋に入る。