香港国際学園 57
「ちょっと待てよ・・・クソガキと言われて黙ってるほど僕は温厚じゃないけどな」
文冶に向かって今度は誠一が感情を抑えるように言う。
手からスパークが飛び散り、構えを取る誠一を見て、文冶の目がすっと細くなると背中の剣に手をかけたのだ。
(流石にコイツは見かけで侮っちゃいけないな・・・異様に場慣れしてやがる・・・)
文治の驚きも当然である。
誠一にとって『電撃』の能力は能力の全てではなく、体術にも優れたものを持つ。
誠一の鈴木家は別名『裏鈴木』と言われている。もともと表の鈴木家は代々紀伊の熊野大社を守護する役目を負い、裏の鈴木家はその実働部隊なのだ。
修験道から流れる数々の暗殺術・・・千数百年に渡り鈴木家に蓄積された戦闘マシーンのDNAを誠一もしっかりと受け継いでいたのだ。
確かに女の時は能力が落ちるものの、男の時の誠一は戦闘力と場数では学園屈指のものを持っていたのだ。
しかし九十九が攻撃しようとした時に、
「俺にやらせろ」と後ろから要の声が聞こえた。
九十九が声のした方に振り返るが、そこに要の姿はない。
誠一が、要に狙われている、と気づいた時にはもう手遅れだった。
「おらぁ!」
速い。
反応が追いつかなかった。
だが、要の速度に反応するなど、もとから考えていない。
問題はこの後だ。要のブチ当ててくれた掌底は恐らく自分の肋を割ってくれた。
しかし、今、この瞬間、要の行動は常人程度だ。ここを狙う。
「だらぁ!」
手にありったけの電力を込めて、獣が爪を突き立てるがごとく、手を振るう。
「くそがぁ!」
要はそれに気づき、バックステップで回避しようとする。
「かわされたか」誠一の攻撃は要の服を焦がす程度だった。
「くそが…」
誠一は先ほどの要の言葉を真似てみる。胸に鋭い痛みが走っただけだった。
息をする度、脇腹が痛む。
だが痛がってる暇はない。
要が二撃目の予備動作に入っているからだ。
地面を蹴った。
今、負ければ自分は一生、負け犬のような気がした。何が何でも誠一を打ち負かす。己のプライドの為に。「はあっ!」
誠一が自身の正面に電気の障壁を造りだした。
俺の攻撃ルートの直線上だ。たしかにこのままでは俺は電気の壁の中に突っ込むことになる。だが、
「俺をナメているのか?誠一?」
要に正しく一瞬で後ろに回り込まれた。
だが、それこそ俺の狙い目だ。
「死ねやぁ!」
要の掌底が飛んでくる。
ひゅわっ、と要の掌底が髪の毛をかすった。
「お前がな!」
振り返りざまに、要に電撃を込めた一撃を浴びせた。
「ぐうぅっ…」
電撃のおかげて、2、3メートル程吹っ飛ばされた。腹筋が痺れているのが分かる。
「なかなか、切れるじゃないか」
立ち上がり、自分の頭を指さす。
誠一は恐らく、障壁を造る事で、俺の攻撃を制限したのだろう。
少なくとも正面から攻撃されることはない。
そして俺が素直に後ろに回り込んだ際にカウンターを喰らわせた、と。