便女当番 2
「あの会長さんが、便女当番なんて考えたのか?」
「ああ違う違う。便女当番をはじめたのは20年ぐらい前の生徒会で、今の生徒会はそれを受け継いだだけさ」
「そ、そうなんだ……」
あんな文化だか風習だかを創るような人と顔を合わせるわけじゃないと知って、ホッとする。
「なあ、矢住は便女当番を良く思ってないのか?」
「いや、それは……」
「ま、気持ちはわかるぜ。俺も去年、新一年生として便女当番のことを知らされた時は、すっげー驚いたからな」
そりゃそうだ。
「まあ、放課後に会長たちが教えてくれるさ。この便女当番がいかに良いものかをな」
放課後、四階の端にあるという生徒会室へむけて、俺は歩いていた。いや、案内役の女子生徒も一緒だから「俺達は」だな。
廊下を歩いていると、昼休みと同じく男子便所の中から女子の喘ぎ声が聞こえてきた。
「……あッ…アッ!……あんッ!…アッ!…アァんッ!!」
気まずい思いをしながら廊下を歩く。
「そう気にすることないわよ」
案内役の女子生徒…俺と同じクラスの生徒会メンバーである高樹 絢子(たかぎ あやこ)が声をかける。
「一年生はともかく、二年生や三年生なら悦んで便女当番をやってるから」
艶やかな黒髪を腰までのばし、胸は推定Dで、勝ち気そうな美少女は、そう言って微笑んだ。
「高樹さんは便女当番のこと、どう思ってるんだ?」
「良い風習よ。性欲やストレスの発散になるわ」
「え……」
意外だった。便女当番を喜んでるのは男子だけだと思ってた。
「絢子さん」
その時、後ろから男の声が聞こえた。俺と高樹さんが振り向くと、そこには一年生の男子と女子がいた。というか、女子は俺の一歳年下の妹・愛美だ。
男子の方は、左腕に生徒会長や高樹とよく似た腕章が巻かれている。どうやら、この小動物っぽい小柄な一年生男子が愛美の案内役らしい。
「あら、護。その娘が転校生で妹のほうかしら?」
「はい、絢子さん」
あれ、この二人、ファーストネームで呼び合ってるのか。どういう関係だ?愛美も不思議そうにしている。
俺達兄妹の疑問に気づいたのか、二人が説明してくれる。
「1年4組・吉田 護(よしだ まもる)といいます。僕と絢子さんは、4月からお付き合いしてます」
「そう、私は護の彼女で、護は私の彼氏よ」
「「ええ〜〜!!!」」
本日何度目かの驚きだ。
案内役の二人に連れられ、生徒会室に入る。広さは他の教室と変わらないが、床に敷き詰められた絨毯や、壁にかけられた絵画が、少し違った雰囲気を出している。
部屋の中央に長机が六つ、長方形に置かれ、総勢八人の男女がイスに座っている。
「やあ」
黒板側の机を使っている三年生男子…昼休みに会った生徒会長が声をかけてくる。
「いらっしゃい。歓迎するよ、矢住 健人くん、矢住 愛美さん」
「お二人とも、立ち話もなんですから」
生徒会長に続いて声をかけたのは、その隣に座る、会長によく似た顔立ちと縦ロールした栗色の髪を合わせ持つ美少女だ。おそらく、田中の言ってた副会長…会長の妹なんだろう。
彼女は空いているニ席の一つ…自分の黒板側と対になってる掲示板側の席をにこやかに指し示す。
「そこのイスに座ってくださいまし」