転性能力を授かりました 2
「え、とにかく、財前さん、貴方には新しい人生を始めていただきます」
「おう!…あ、ちょっとまって。さっき言った魔術師の能力って、どんな能力なんですか?」
「転性術です。男性を身も心も女性に変える魔法です。希少な才能が無いと身に付けられない、特殊な魔法ですよ」
「なんか変な魔法だな……」
「でも、希少な魔法ですし、世の中で重んじられることでしょう。それでは、良き人生を!」
「えっ、わっ、ちょっと?!」
エメリーシェさんが両手を胸の前に持ってきて、印を結ぶとそこから目も眩む強い光が生じ、俺を飲み込んだ。
「ご安心ください。こちらの世界で必要な知識や記憶も、ちゃんと用意してありますから」
その言葉を最後に、俺の意識は暗転した。
「ん…」
俺が目を覚ますと、そこはどことも知れないヨーロッパ風の部屋だった。
紀行番組で見る、歴史的な街並みやそれを構成する古い住宅内の様子を思い浮かべていただければ、俺が今見ている部屋の様子はイメージしてもらえると思う。
ベッドや部屋の内装は粗末なものではなく、それなりに裕福なようだ。
俺はベッドに寝ていたようだ。体を起こして自分の体を見てみると、ガウンに包まれた体は二十歳前くらいの若者のものだった。
その直後の一瞬、ずきっと頭痛がして、いろいろな情報がいっぺんに再生された。
これが、この世界に関する知識や、この体での人生の記憶らしい。
十五年分以上のデータがいっぺんに来て、ちょっと驚いたがこれが転生かと思うと苦にはならない。
身体を動かしたり、部屋の中を軽く調べたり、廊下に出て別の部屋に入ったり。
ここは俺の持ち家で、魔術師としての俺の研究室を兼ねたもののようだ。
ちなみにここでの名前は、「ヒースクリフ・ノースロー・ハヤテ・グリフィス」というらしい。
自室に戻って、さっき渡されたデータにあった魔法を発動してみる。
風を起こす、火を起こすなど初歩的な魔法をやってみた。
初歩だからさしたる魔力消費もなく、発動できたが、初めて魔法を使う俺は素直に感動した。
人に見られたら不審がられたかもしれず、誰もいない自室でやって良かったと思う。