倭国大戦記 1
時は弥生時代の末頃、所は日本。ある人里離れた山奥に、まるで周囲から隠れるような形で集落が築かれていた。村長(むらおさ)の館を中心に住居が放射状に建ち並び、全体を柵で囲まれている。見張り矢倉もあり、遠くまで周囲を見渡せる。戦争に備えて作られた村だ。もっとも、この時代においてはそれが普通だった。
中央の館には美しい女と少年、それに召使い達が住んでいた。
「よろしいですか?アキツヒコや」
「はい、母上」
女と少年は親子だった。
「お前が産まれる前、私達の国はヤマタイ国との戦いに敗れ、王様…父上は殺されました。私は大きなお腹を抱えて何とかこの地まで逃げ伸び、生き残りを集めてここまで国を再興させたのです」
「知っています、母上。もう何度も聞きました」
「いずれはお前が私の後を継いで、王としてこの国を治めるのですよ。そして…」
「あわよくばヤマタイ国を滅ぼして父上の仇を討て…ですか?」
「そうです。良く分かっていますね」
「毎日聞かされていますから…」
すなわち、この二人は亡国の王妃と王子という訳である。
「…てゆうか、そんなの期待されても俺には無理だよなぁ…」
やっと母親から解放されたアキツヒコは村外れにある大木の下に寝転がってボヤいていた。
「そうだね。アキツヒコに戦の才能が有るとは思えないし…君は無難に国を治めていくのが一番良いと思うよ」
「ユミヒコ、お前は相変わらずハッキリ言うな…」
このユミヒコは村一番の弓の名手であり、アキツヒコの親友でもあった。
「それに、もし敵が攻めて来た時は僕が君の盾になる」
「ユミヒコ…」
自分を護ると言ってくれるユミヒコの優しさに感激するアキツヒコ。
「だから心配しなくて良いんだよ…」
そう言うとユミヒコはアキツヒコの手を取って自分の胸に導く。
「ユ…ユミヒコ!!」