Eternal 1
11歳の裕(ゆう)は早くに母を亡くし、父は外に女を作り、もう半年は帰ってきていない。
そんな裕も普段は明るく、淋しい様子など見せないが、やはり母親が恋しい時期である。
今日も学校が終わり、家に帰ってくると向かいに住む千佳子さんが家にあがっていた。
「うふふ…お邪魔してるわよ、裕くん」
千佳子さんは、たまにボクを心配してか、ご飯を作りに家に来てくれる。
「ねぇ、裕くん…いつでもウチに来ていいのよ」
千佳子さんはそう言ってくれるが、ボクは生まれ育ったこの家を離れられないでいた。
「さぁ、できたわ…」
千佳子さんがご飯を持ってくる。26歳のOLで、仕事もバリバリこなす千佳子さんは料理も上手である。
「うふふ…」
談笑しながらご飯を済ませ、お互いの日常の他愛もない話をしていると千佳子さんの携帯がなった。
「うん、わかったわ…」
手短に電話を切ると千佳子さんはいたずらっぽい顔で切り出した。
「ウチの両親がね、今日は帰らないんだって、裕くんのところに泊まってもいいかな」
ボクはその思いがけない言葉にドキッとする。
「着替えをとって来るわね」
そう行って千佳子さんは一旦帰宅した。
ボクは落ち着くことができず、部屋の片付けをはじめた。普段から部屋はキレイにしているので正直あまり片付けるところはない。それでも何かしていないと気が落ち着かなかった。
(千佳子さんが来るなら布団は二枚出しておかないと…)
ボクは布団を二枚、部屋の端と端にわざとらしいくらい離して敷いた。
一時間後…千佳子さんがやってきた。
離れて敷かれた布団を見るとちょっと口元が弛んだ。「うふふ、裕くん、お風呂借りるわね、一緒に入る?」
千佳子さんは、またいたずらっぽく笑うとそう話し掛けた。
「い、いや、いいです!」ボクは赤面しながら慌てて断った。もちろん一緒にお風呂に入りたかったというのが正直な気持ちだ。千佳子さんがお風呂に入ってる間、ボクはテレビをつけながらも、時折、お風呂から聞こえてくる音に耳を傾けていた。シャワーの音、水の跳ねる音…普段あまりに聞き慣れているこの音にこれだけ興奮した事は今までない。
数十分後、千佳子さんが濡れた髪を拭きながら部屋に戻ってきた。
「うふふ…ただいま♪裕くんも入っておいで」
ボクは興奮覚めやらぬまま、千佳子さんがさっきまで入っていた風呂にむかった。
服を脱ぎ、そっと湯槽に浸かる。まったく気にならないハズの風呂の縁の石鹸カス、飛散したシャンプーの泡、そのすべてが新鮮に感じられた。そっと湯に顔を漬け、そのまま潜ってみる…傍から見たら何の変哲もない行動だが、裕にとっては『千佳子さんが浸かった湯』というだけでその行為は新鮮であった。
身体を拭き着替え終わって部屋に戻ると、端々に敷いたハズの布団が部屋の中心に二枚並んでいた。
「もぅ…裕くん!せっかく泊まりに来たんだから!照れないの!」
裕の心中の全てを察しているように千佳子はそう言った。