脱獄犯No,0013 3
「お前な。日本で同じように嘘の痴漢で訴えて、後でその事がばれて、日本にいられなくなった事もあるだろ。」
「もしかして、俺を守るためというのは、おれの命を狙ってる人がいたというのか。えーどうなんだ」
「その通りです!高次さん!あの時あなたは命を狙われていたんですよ!それを知った私は警察の保護下なら安全だと判断して、やむなく嘘の証言をして警察にあなたを逮捕させました!…確かに、やり過ぎだったかも知れない…あなたの人生の一部を犠牲にした…もしかしたら他にもっと良い方法があったかも知れない……でも、あの時は他にあなたを守る方法を思い付かなかったんです!あなたを助けるためには仕方なかったんですよ!」
美幸は続ける。
「…確かに、私は日本で罪を犯しました。無実の人を痴漢だと言って騒ぎ立て、高額のお金を要求する…そんな悪事を繰り返してきたんです。あの頃の私は学校では優等生、家では親の言う事を良く聞く真面目な良い子を演じていたので、みんな私の言う事を信じました。男達は皆、事が大きくなって家族や職場などに知られるのを恐れて簡単にお金を出し、私もそれに味を味をシめました。でもある時、カモにした男の一人が徹底的に無実を主張して裁判沙汰になりました。法廷では私の証言の矛盾がことごとく暴かれ、私は学校と家での信頼をいっぺんに失い、日本に居られなくなってこの国に来たんです…」
「……」
話を聞きながら高次は思った。
(この女の言っている事は本当だろうか?俺が命を狙われているという話…全てこの女の妄想ではないだろうか?)
聞かれてもいないのに自分の過去をベラベラと喋り出すような奴だ。
かなり思い込みが激しいと見て良い。
だとしたら、俺はこんな頭のおかしな女のために人生を台無しにされたのか…高次は怒りが込み上げて来た。
美幸はまだ話し続けている。
「…ですが、この国に来て私は変わりました!心を入れ替えて生まれ変わったんです!今ではすっかり真人間です!もう嘘は吐きません!ですから信じてください!高次さん!あなたは本当に命を狙われていたんで…」
「うるせえ!このクソアマ!」
高次は美幸を殴り飛ばした。
「ぐほあぁぁっ!!?」
美幸は血を吐いてぶっ倒れた。
「お前を殺す!!」
高次は美幸に馬乗りになり、首を締め上げた。
銃を使うと教会のガキ共にバレる。
絞殺するつもりだった。
美幸は最初は抵抗していたが、次第に弱々しくなり、白眼を剥いてビクビクと痙攣し始め、失禁した。
もう少しで死ぬ…高次がそう思った時。
「キャーーーッ!!!?」
悲鳴が聞こえた。
見ると、さっきのお下げ髪の娘だった。
あまりに遅いので様子を見に来たのだろう。
「まずい!!」
高次は逃げ出した。
ファン ファン ファン ファン ファン…
パトカーのサイレンが聞こえて来る。
どうやら警察に通報したらしい。
最悪だ。
どのくらい最悪かと言えば、例えば異国情緒ただよう雰囲気で始まったリレー小説を無理矢理日本の痴漢の話に持って行こうとするくらいの最悪さだ。
嫌がらせだとしたら相当にタチが悪いが、天然でやってるとしたらそれもそれで救いようが無い。
致し方の無いこの現実を果たして高次はどう乗り切るのであろうか?