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脱獄犯No,0013
官能リレー小説 - その他

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脱獄犯No,0013 2


その少女は名を八神 美幸と言った。高次は美幸とその家族とは、この国には数少ない日本人同士として知り合いだった。最初に会った時の美幸の印象は、今どき珍しい純情で素直そうな少女だった。後にこの国の友人から“彼女は日本で嘘の痴漢の訴えを起こして、それがバレたために日本に居られなくなった”と聞いたが、高次にはとても信じられなかった。あの純真無垢な美幸がそんな事をするはずが無い、きっと何か事情があるのだと思った。
だが高次は自身の認識の甘さを身を以て知った。突然家に来た警官隊に身に覚えの無い痴漢容疑の逮捕状を突き付けられたのは、忘れもしない、高次がマリーとの結婚式を明日に控えた日だった。平和なこの国では痴漢といえども重罪で、彼は懲役10年を喰らった。だが彼は復讐のために命を懸けて脱獄した。だが時の流れは残酷で、既に5年の歳月が経過していた…。

高次は真っ先に美幸の家を目指した。だが、行ってみるとそこは空き家となっていた。やむなく彼は街の酒場に入り、店主に尋ねた。
「マスター、この街に住む日本人の美幸という娘を探しているんだが…」
「ミユキかい?彼女なら街の外れの教会に住んでるよ」
この店主は高次とは顔見知りだった。だが彼は目の前の男が高次とは気付かない。高次は5年間の監獄暮らしで頬は痩け、目は落ち窪み、髭は伸び、健康的に日焼けしていた肌は病的なまでに青白くなっていた。
「教会だと?何だってそんな所に…?」
「可哀想に、ご両親が病気で相次いで亡くなって一人きりになってね、身寄りが無いから教会が引き取ったんだ。今は自分と同じように身寄りの無い子供達の面倒を見てるという話だよ。いや、偉いね…」
今、美幸は19歳になっているはずだ。美少女だった美幸はきっと美しい女になっているに違いない。
「そうか…ありがとう、マスター」
高次は店を出て教会に向かった。店主は彼の背を見てつぶやく。
「あの男、どこかで会ったような気がするんだが、はて誰だったかな…?」
だが彼はついに今の男と5年前に痴漢容疑で逮捕された気の良い日本人を結び付けられなかった…。

その教会はリリールの街を見下ろす小高い丘の上に建っていた。扉を叩くとツギハギだらけの服を着た貧しい身なりの子供達5〜6人が出迎えた。だが一番小さな3歳くらいの女の子が高次を見て怯えて泣き出してしまった。高次から溢れ出る復讐心というか殺気を感じたのかも知れない。高次は慌てて少女をなだめた。
「あぁ、泣かないで…怪しい者じゃないよ」
「あの、教会に何かご用でしょうか?」
子供達の中では最も年上の少女が尋ねた。12〜13歳くらいで栗色の髪をお下げにし、頬にソバカスのある可愛らしい少女だった。ここで怪しまれては元も子も無いと高次は作り笑いをしながら少女に言った。
「僕はここに住んでいる美幸さんの古い友達なんだ。久しぶりに近くに来たんで顔を見ようと思って寄ったんだよ」
「…まあ!シスターのご友人の方でしたか。そうとは知らず失礼いたしました。今シスターを呼んで来ますね」
目の前の男が美幸の友人だと解ると少女は途端に笑顔になり、美幸を呼びに奥へ行った。
(どうやら美幸のやつ、よほど子供達に慕われているようだな…)
高次は懐に手を入れた。中に刑務所を脱獄する時に看守から奪った拳銃があるのだ。美幸が姿を現したら即座に射殺してやろうと思っていた。自分から全てを奪った女だ。容赦する事は無い。…だが、この子供達を見ていると決意が揺らいだ。
(せめて子供達の前で殺すのだけは勘弁してやるか…どこか人気の無い所にでも呼び出して…)
そんな事を考えていると女の声がした。
「あの…私が八神 美幸ですが、あなたは…?」
高次が顔を上げると、そこには黒いシスター服に身を包んだ一人の美女が立っていた。高次は彼女に僅かにかつての面影を認めた。それは美しく成長した美幸に違いなかった。
「お久しぶりですね、美幸さん…私を覚えていますか?」
「はあ…」
やはり美幸も高次が判らないようだ。
「ふふ…気付かないのも無理もありません。何せ5年ぶりですから…。ほら、私ですよ。休みの日には良くあなたを船に乗せてあげた…」
「あぁ…っ!!」
そこまで言われてようやく気付いた美幸は真っ青になって両手で口を押さえた。
「み…皆さん…私はこの方と大切なお話があります…皆さんは外で遊んでいてください…」
美幸は震える声で子供達に言った。
「シスター、顔色が…」
お下げ髪の少女が心配そうに美幸に話し掛ける。
「良いから行って!」
「は…はい!みんな、行きましょう…」
美幸が語調を強めると、少女もさすがに何か事情があると察したのか、子供達をまとめて外へ出て行った。
教会の礼拝堂には高次と美幸の二人きりになった。先に口を開いたのは美幸だった。
「どうしてあなたがここに…?あなたは刑務所にいるはずじゃあ…?」
「君に会いたくて脱獄して来たんだよ…俺の全てを奪った君にね…」
高次は静かにそう言うと拳銃を取り出して美幸に向けた。
「そうですか…やはり私を恨んでおいでなんですね…」
「恨んでおいでなんですね…だと!?俺の人生はお前のせいでメチャクチャになったんだぞ!この5年間、俺がどんな気持ちで生きてきたか解るか!?」
美幸は涙を流しながら高次に訴えた。
「ごめんなさい…許してくれとは言いません…ですが、あなたを守るためには、ああでもするしか無かったんです!」
「俺を守るため…?何だ?それは一体どういう意味だ?」

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