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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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悪魔とオタクと冷静男-13

「……」
 顔に付いた水を拭いながら、不意打ちを受けた方向、家の前の道路の方を見ると、どこかで見たことのある部長と部員達が、銃のようなものを持って立っていた。
「やあ栗花落くん、ご機嫌いかがかな?」
 すると、見覚えのある部長が爽やかに言った。
「……先輩、何してるんですか」
「うむ、いい質問だ。これはだね…」
 …聞かなければよかった…。
「やっぱり言わなくていいです。今すぐ帰ってください」
「会話中、突然電話を切るという暴挙に出た栗花落くんに、それ相応の制裁を」
「…無視か」
 今の一連の流れに既視感を感じつつ、ため息を吐いて長谷部から視線をそらす。
「幸一郎さん、おはようございます」
「いっちー、ちゃんと起きてる?」
「…お前ら、今すぐ先輩を連れて何も言わずに帰ってくれ。つーか帰れ」
「えー、せっかく暇そうないっちーのためにみんなで遊びにきてあげたのに?」
 つばさが見るからに残念そうに言う。
 かなり心が動かされるものがあったが、今の興味はつばさよりも睡眠の方に大きく傾いている。
「ああ、帰れ。家の周りで大声で騒がれたりすると、はっきり言って迷惑だ。こっちが恥ずかしくなる」
「うぅ、寝起きだからいつもより対応が冷たいよぉ」
「分かってるならさっさと帰れ。貴重な睡眠の邪魔だ」
「あら、と言うことはわたくしもお邪魔でしたか?」
 一瞬にして背筋が凍りついた気がした。
 当然、桜子も含めてのことだが、こっちは立場が最悪だ。そんなことを言えるわけがない。
「お邪魔でしたら残念ですけど、みなさんとお話でもしながら帰りますわ。楽しいお話をしながら」
 やけに『お話』を強調して言う桜子。言葉とは裏腹に、表情は楽しげだ。
 こうなると、二度寝と秘密の保持の、どちらを選ぶかなんて考えるまでもなく決まっている。
「…今から行くから少し待ってろ」
「あら、よろしいんですか?無理なさらなくても」
「……」
 桜子の言葉を聞き流しつつ普段着をタンスから出し、それに亜光速で着替える。寝癖が少し気になったが、諦めて部屋を出ると、そのまま全速力で外に向かう。
「うわ、いっちー早いねー」
 玄関から飛び出した僕を見て、つばさが驚きの声を上げたが、それには構わず、とりあえず呼吸を整えて質問する。
「……で、お前らは何しにきたんだよ?」
「さっきも言ったじゃん。遊びにきてあげたよー、って」
「…誰がそんなこと提案したんだ?」
「あ、それはわたくしです」
 やっぱり…。どうせ本当の目的は他にあるんだろうな。
「…で、これからどうするんだ?」
「あ、そう言えば。遠矢さん遠矢さん」
「ええ。その事についてなんですけど…」
「…何だよ?」
「まだ何も決まっていないんですよね」
「……」
「いっちーは何かしたいことある?」
「急にそんな事言われてもな…」
 助けを求めるように周りを見回す。もちろん答えなんてどこにも書いてないけど。
 そのかわり、あることに気が付いた。
「…なあ」
「んー?やりたいことでも思いついた?」
「そうじゃない。別のことだ」
「違うの?……あ、帰れって言っても帰らないからね」
「そうですよ。せっかく来たんですから」
「…分かってる。いまさらそんな事言うわけないだろ」
「じゃあ何?」
「五十嵐先輩はいないのか?」
「ああ、やつなら何か知らないけど遅れるって言ってたぞ」
 背後からの声に振り向くと、さっきまで熱く演説をしていたはずの長谷部が、いつの間にか立っていた。
 まったく気が付かなかった…。
「そ、そうですか」
「栗花落くん、何を驚いているんだい?」
「…別になんでもないです」
「まあいいか。それより栗花落くん、少しばかり咽が渇いてしまってな」
「…そうですか」
「だからと言って飲み物を要求しているわけではないぞ。もちろん強要することもできるが、自分の要求を押しつけるだけなら赤ん坊でもできる。だが他人と付き合う以上、自分の欲求だけでなく相手の心情などを汲み、可能な範囲で双方にとっての最善策を思考することが必要だ。よって私は問題を口述することによって自己の要求を表明し、周囲の人物が自発的な援助を行なっても自然な状況を…」
「……」
 長い。回りくどい言い方をしないで素直に言えばいいのに。妙なプライドでもあるのだろうか?
「…であるからして、人間は欲望のまま生きたのではなく、これからはそれをいかに解消させ、円滑な関係を築くことが重要だったから…」
 最初の話とまったく関係ない。しかも本人は気付いていないようだが、文法がおかしくなってきている。
 それよりも、二人をいつまでも立たせておく訳にもいかないだろう。これでも一応客なのだから。


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