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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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悪魔とオタクと冷静男-12

…朝だ。
 眩しいし、そろそろうるさくなってきたから、たぶん確実だ。
 たぶんなのか確実なのか、はっきりしないが、それは言わないお約束って事で。
 もっとも時間的には朝でも、僕の場合、休日の朝とは十二時を過ぎてからの事を指すのであって、今は二度寝直前の、朝でも夜でもない時間だ。
 だが、そんな時間を破壊するように携帯の着信音が響き渡る。
 うるさい、早く止まれ〜!
 と、電波を送ってみたが当然変化無し。
 まだ鳴り続けているので、電話だ。だが、それでも無視する。
 きっと間違い電話だろう。携帯の番号を教えたやつなんてほとんどいない――。
「って、まさか!?」
 いまさらながらに気が付いた。この番号を知っているのは、親とつばさぐらいだ。
 で、家にいて電話がきたって事は…。
 一気に目が覚めた。慌てて携帯を開くと画面を見る。
 しかし、そこには予想に反して非通知の文字が。
「……」
 失望からか、そのまま数秒、画面を見ながら惚けてしまった。
 考えてみれば、つばさは滅多に携帯に電話してこない。
 用がある時は、近所だから直に言いにくるか、家の電話に掛けてくるからだ。
 その事実に気付き、まだ鳴り続けている携帯を閉じると、再び布団のなかに潜る。
 携帯はそれでもしばらくは鳴り続けたが、やがて相手も諦めたのか鳴り止んだ。
 と思ったのも数秒、再び携帯が着信を告げる。一応確認のために見たが、今度も非通知だった。
 ふざけんな、と思ったが、こんなにしつこいのは急用だからかもしれない。
 そうだとしたら、間違いだと教えたほうがいいだろう。
「もしもし」
「おはよう、栗花落くん。朝の気怠そうな声もまたいいな」
「……誰ですか」
「ははは、知ってるくせに」
「…………長谷部先輩ですか」
「正解だ!やはりクールな美少年は頭の回転が速い」
「……どうして僕の携帯の番号知ってるんですか」
「適当にダイヤルしたら繋がったんだよ」
「嘘ですね。こっちが名乗る前から栗花落って呼んだじゃないですか」
「ほほう、かなりの名推理だね」
「……」
「だがその推理には穴がある」
「穴、ですか」
「ああ、そうだ。もちろん、アナウンサーやアナログのことじゃないぞ」
「そんな事分かってますよ。どこら辺が穴なんですか」
「どこって、女性に穴の位置を聞くのはちょっと問題だぞ」
「……意味がまったく分かりません」
「童貞くんにはよくある話だけどな」
「…切りますよ」
「おっと待ってくれ。肝心なのはここからだからな」
「……さっさとしてくれ」ボソッ。
「ではでは、長谷部おねーさんの推理講座、始まり始まり〜」
「……」
「では今日の推理『名乗る前から名前を知っていた』について考えよう!」
「……」
「……」
「……」
「…栗花落くん、早くしてくれないかな」
「何をですか」
「そんなの決まってるじゃないか」
「…分かりません」
「こうゆう場合、司会者に続いて『はーい』とか言ってもらわないと困るんだよ」
「……」
「じゃあ最初からやり直しだ。いいね?」
「…勝手にどうぞ」
「あぁ、その冷たい仕打ち、ゾクゾクくるものがあるな。新しい世界に足を踏み入れてしまいそうだよ」
「……」
「だが心配しなくてもいいぞ栗花落くん。もしそうなってら、君も一緒に連れていってあげよう」
「そんな心配なんてしてません」
「無理に隠さなくてもいいんだぞ。性癖など十人いれば十通り、たとえ二次元にしか萌えなかったり苦痛に快感を感じたりしても、臆さずに胸を張っ」
「切ります」
 問答無用で通話を終了させ、さらに電源を切って沈黙させる。
 電源が確実に切れたのを確認すると、三度布団を頭から被る。
 そしてようやく、本来の朝の過ごし方である二度寝に戻れると喜んだ矢先、
「うおぉぉー!なんてことだー!」
 外から謎の大声が聞こえてきた。どこの誰だか知らないが、かなりの近所迷惑だ。
 だが、そのうち誰かがなんとかしてくれることを願い、傍観者を決め込む。
 そう、決め込んだのだが…。
「栗花落くーん!聞いてるかーい!」
 …………僕だよ。
「シカトかー!そうゆう態度はよくないと思うぞー!よって、正義の鉄槌をくらえ!」
 …正義の鉄槌?
 大声が終わると同時に、何か液体が窓に当たる音が。それも、一回だけではなく何回も連続して。
「君は完全に包囲されているー!おとなしく窓を開けろー!」
 再び水音。
 別に命令に従うつもりはないが、このまま放置するわけにもいかないので、窓を開けて顔を出す。
 だが、謀ったかのように僕の顔に液体、と言うか普通の水が降り掛かる。


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